▼ どうぞご自由に




『 佐疫さん。 』


「 あぁ、ななし。任務ご苦労様 」



 そしてはい、と渡された林檎に首を傾げた。血のように赤く染まった林檎を見ていれば早々に走り去っていく佐疫さん。嗚呼、もしかしたら援軍を頼まれたのか。



『 失礼します、助角さん。 』



 次に訪れたのは獄都の長、助角さんの執務室。アンティーク調の家具を揃えたこの部屋はなにも変わってやいやしない。



『 例の鬼書及び鬼の件、先日に任務完了しましたので報告に。 』



 先程纏めた任務結果を嘘一つつかずに話していけば紙に書かれている黒髪の男という単語。あの男はきっと鬼。だが今話したところで意味はないと男の話題は話さず。



『 鬼書は今のところ一冊しか見つけられていません。鬼は今回仕留めましたが、前回仕留め損なった鬼が未だ見つけられていません。これは捜索している途中です。 』


「 ご苦労。引き続き調査を続けてくれ。 」


『 ___しかるべく。 』



 身を翻し、助角さんの部屋から出ると丁度暮れ六つを知らせる振り子時計の音が聞こえる。暮れ六つは現世でいう午後六時。



『 戻って書庫の整理をしないと。 』



 朝から夜までが古書を扱うノスタルジヰ堂を営み、夜になれば鬼及び亡者を狩るという任務につく。これは何度目だろうか。



『 鬼書、あのままでも大丈夫でしたかね。 』



 あの男の顔の横へ投げ棄てた鬼書を思い出せば呟いた。外套の裏から古書を取り出し、中を開いて見れば一文に目を通す。



 ___勝利を確信した者は死ぬ。



 …何ともまあ、谷裂が言いそうな言葉。そっと古書を閉じ、外套の裏へ隠す。現世に戻ろうと出口へ歩みを進めた時、数年前の出来事を思い出す。



『 鶴戯…斬島さんや、佐疫さんを傷付けた奴…。 』



 鶴戯は優秀な獄卒及び管理補佐だった。赤い髪に赤い目が特徴的で、何より慕っていた獄卒だった。___が、あいつは亡者を狩るのを邪魔され、二人を傷付けた。



『 あいつを殺していいのは___ 』



 ___私だけ。獄都から永久追放された身でありながら自由に動くあいつが憎い。今も未だ消えやしない過去が脳裏に過れば自然と憎しみや憎悪が沸く。



 目障りなあいつが嫌い。平気で笑う顔も。全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部。



『 全て、全部、大嫌い。 』



 は、と乾いた笑いを浮かべ、そっと歩みを進めた。片方の足が何故か重く感じたのは、きっと過去に囚われているから。



 ___ただ、それだけ。




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