《 忘れられた言葉達 》
「 何だ、まだいたのか。 」
『 だって百目鬼が私の肩に寄り掛かってるからさ。 』
俺は直ぐ様目を見開いた。嗚呼、寄り掛かっていたのか。するとアイツの口から、起こすのが勿体無くて。と言う言葉が出てきた。嗚呼、寝顔まで見られていたのか。
内心で羞恥と屈辱と葛藤していると頬が赤いと指摘され、更に葛藤してしまった。嗚呼、こんな姿当の昔に捨ててきたと思ったがやはりまだ自分は思ったより幼かったようだ。
『 百目鬼ってさ、何で黒龍の部下になったの? 』
「 …大切なものがいなくなって、家族も地位も何もかも投げ出して家を出たんだ。雨の中、途方に暮れていた俺を拾って傍に置き、武術等教えてくれたのが黒龍様だ。 」
大切なものは、今隣にいる。が、今隣にいる俺の大切なものは俺との記憶を消されている。幼い頃に緋龍城の長、イル陛下の手によって、だ。少しからず憎いと感じたこともあったか。
『 百目鬼 』
「 何だ? 」
『 誰かを守り抜くとね、誰かに罪を作るんだよ。けれど、生きるほど愛を知って強くなるんだ。 』
その言葉を聞いて、昔のアイツの言葉を思い出した。泣きそうな表情のまま無理して笑うばかりいる、アイツを抱き締めてあの言葉を聞いた。
『 めのおくにうつる、かこのきずをのみほせるようなひとになりたいな。 』
『 わすれないでいて、いまそのめにうつるしあわせ。わたしはわすれても、あなたはおぼえていてね。 』
『 あなたがいれば、せかいはまんげきょうだね!たいくつだったひびに、ひかりがさしたきがする! 』
思い出した言葉に、心の穢れた部分が洗い流されたような気がした。ふ、と口許が緩んだと思えば自分でも不思議に思えるくらい無邪気な笑みを浮かべていた。
「 お前は、もう強いな。 」
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