《 投げ出した記憶 》
俺は、とある一族に産まれた。
「 とうさん、かあさん、おれのいちぞくのしめいって、なに?だれかをまもるの? 」
「 ああ、そうだとも。お前と同い年の姫を護るんだぞ! 」
「 ふふ、上手く馴染めると良いわね。 」
城へ向かいながら話す親子三人は幸せに満ち溢れていた。綺麗に微笑む母親、そして嬉しそうに微笑みを浮かべている父親を不思議そうに見つめている、男児。
「 あんたが、ここのおひめさま? 」
『 ううん、おひめさまはいもうとだよ。わたしはおひめさまじゃないよ。 』
月光が差し込む庭の下で二人は出逢った。庭に咲く黒ユリの華を手一杯に抱え込み、暁の髪を揺らす女の子は不思議そうに紫色の瞳で少年を見つめていた。
『 わたしは、あねだよ。 』
「 それじゃ、あんたもおひめさまだろ。 」
『 ううん、わたしはちがうの。わたしはおひめさまじゃなくて、ただのあねだよ。 』
黒ユリを抱えながらアイツは綺麗に微笑む。儚げに微笑む姿を見つめているとアイツはゆっくりと背中を向けてどんどん奥へ進んでいく。それにつれて、柔らかな華の匂いがする。
すると、景色は一転して暗闇へと変わった。混乱していると啜り泣く声が聞こえて振り向いた。静寂の中、冷たい扉の前に両膝を床につけ、扉に両腕をすがるようにつけ、アイツは泣いていた。それを慰める、子供の俺。
『 も、おわかれなんだって。 』
「 ?あんたはおれのめのまえにいる。 」
『 ううん、ほんとうのおわかれだって、 』
嗚呼、このとき俺は背後から殴られて気絶させられたんだ。アイツの最後の言葉を俺は、思い出せない。すると鮮明に聞こえてきたアイツの言葉に目を見開いた。
『 どこかに、おきわすれたさようなら。 』
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