《 目に映る自分は 》







 赤い月光が射す桜の木の下にゆっくりと腰を下ろす。綺麗な薄紅色をしている桜の花弁の散り行く様を見つめながら、私は赤い満月を見上げる。





 春爛漫の候、桜は何処も賢も満開の季節とも言える。赤い満月を見て思い出すのは、あの日見た鮮やかに飛び散る赤い液体。そして、心臓に突き立てられた銀色の刃。





 思い出すだけでも怖くなる記憶。暗いところに幾年と閉じ込められていたのだと考えてみれば自分でもわかるくらいに小さく震える肩。自分はまだ、見えない何かに脅えてる。





「 …驚いた。まさかお前も此処にいるとはな。 」



『 百目鬼?なんで此処に? 』



「 此処にくれば、良いことがあると黒龍様が言っていたのでな。だから此処に来た訳だ。 」





 すとん、と腰を下ろす百目鬼を見てからなるほどと頷いてみれば、百目鬼は赤い満月を見上げて吐息を吐く。その仕草を、私は知っている気がして無意識に手を百目鬼の頬に添えていた。





 視界に入る、驚いた百目鬼の表情を見つめてから私は慌てて手を離すも、冷たい体温に手首を掴まれて見つめ合う形になってしまった。嗚呼、この瞳を、私は知っている。





「 おれが、あんたをまもるから、あんたはおれのとなりでわらっていればいいよ。おれは、それをみれるだけでしあわせだから。 」





 嗚呼、泣きそうな表情のまま無理して笑うこの男の子は誰なのだろうか。すると、百目鬼の目は不安げに揺れており、何処かしら哀しさを秘めていた。





「 お前の目に映る俺は、誰なんだろうな。 」





 哀しげに、そして不安げに揺れている瞳を、見つめたままで質問の意味を考えるもそれは思い付かずにいた。すると百目鬼はそっと手首を離し、木に寄り掛かって目を閉じた。









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