『 せいにいさん、せいにいさん! 』



「 どうしたの?ナマエ? 」



『 せいにいさん、ばすけっとぼーるって、たのしいの? 』





征兄さんとは、いつも一緒だった。暖かい、征兄さんの表情を見るのが毎日の日課で、わからないことがあったら直ぐに教えてくれる征兄さんが大好きで。小学校から、中学校に入ると征兄さんは毎日のようにバスケを営んでいた。





「 ナマエ、皆のドリンクを作っておいてくれないか? 」



『 うん、解った。走り終わる頃までには作っておくね。 』



「 すまない、助かる。 」



『 ううん、いってらっしゃい! 』





人数分のタオルを籠の中に詰め、何時もの位置に置いて一息ついていると征兄さんが近づいてきて、ドリンクを作っておいてくれと告げる。桃井さんが日直の当番だからかな。なんて思いながらドリンクを作り始めた。





『 …征兄さん、小さい頃と声が少し変わったな。 』





小さい頃の征兄さんを思い出しながらそっとクスリ、と笑ってしまう。あの頃はとても可愛げがあって、どんな子供達よりも比べ物にならないくらいだった。ドリンクの蓋を閉めて次のドリンクを作り出すと外周を始めた征兄さん達の声が聞こえてきて心の中で頑張れと、エールを皆に送った。





『 皆、お疲れ様!はい、ドリンク。 』



「 すみません、ありがとうございます。 」



「 ありがとー。 」



『 一気に飲まないようにしてね? 』





そっと、笑顔を浮かべてドリンクを渡すと皆はお礼を言いながら受け取ってくれる。最後に征兄さんのところに向かった。お疲れ様、とドリンクを手渡しすると微笑みながら受け取り、頭を撫でてくれた。





『 それじゃあ、私ちょっと桃井さんのところいってくるね。 』



「 嗚呼、また後でな。 」





この会話が、本当の征兄さんとの最後の会話になるなんて思いもしなかった。桃井さんのところに行き、そろそろ部活が終わる時間だからと、昇降口で征兄さんを待っていると赤髪が見えて手を振った。





『 征兄さ、 』



「 待たせたね、行こうか。 」





可笑しい、征兄さんはこんなに冷たくなんてないのに。先ゆく征兄さんに声をかけるとそっと振り向き、双眼をゆっくりと開いた。綺麗な左右の目が、夕日に照らされる。





『 本当に、征兄さんだよ、ね…? 』



「 何言ってるんだい?僕は赤司征十郎だ。 」





嗚呼、征兄さんじゃない。これは、違う別人なんだ。でも、今私の目の前にいる赤司清十郎は征兄さんそのもので、違う。何だか、一気に遠く離れてしまった気がして悲しくなった。





――行かないで。





征兄さんと、ずっと一緒にいたかったのに。貴方は、変わってしまったんだ。





――君と、離れたくなかったこと。









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