黄瀬くんは、たまに私の顔を見て苦しそうな顔を浮かべる。それは、毎日のことで、私が黒子くんと離れた時に限って苦しい顔を浮かべるんだ。まるでその顔は子供を叱りつけるような感じで、私は怖くて黄瀬くんから離れてしまう。





「 はい、これが数学のノートです。 」



『 ありがとう、黒子くん。 』



「 いえいえ。…最近、黄瀬くん変じゃないですか? 」





やっぱり、黒子くんも気付いていたんだ。黄瀬くんは私が黒子くんと仲良くなってからずっと私の近くにいて、黒子くんと話しているとき常にこっちを見つめてくる。今だって、視線を感じるのがわかる。





『 …最近ね、黄瀬くんからメールや電話が多いの。今までは喜んで出ていたけれど、今ではメールを返信するのも、電話に出ることにさえも怖くなって…。 』





そっと黒子くんの耳元に顔を寄せて話をすると、驚いたような表情をする。帰ってからもメールもずっと来ていて、返信を返さなかったら返さなかったら電話をしてくる黄瀬くん。何だか監視されているようでとても怖い。





「 …黄瀬くん、怖いですね。 」



『 私、何かしちゃったのかな。 』





原因は私なのかすら解らない。はぁ、と溜息をついて後ろを振り向いて見ると黄瀬くんが此方を曲がり角から顔を出してじとり、とした目付きで見つめてくる。流石に此方に気付いたのかさっ、と顔を引っ込めてまた伺うように見つめてくる。





「 大丈夫ですよ、きっと。 」



『 うん、ありがとう。じゃあ、また明日ね! 』





ばいばい、と手を振って黒子くんから借りたノートをそっと鞄の中にしまって軽く足早に曲がり角の向こうにいるであろう黄瀬くんに近づいた。曲がり角を曲がって声を掛けようとした時、ありえない物を、見てはいけないものを見てしまった。





『 き、せく――、 』



「 涼太ぁ、遊びに行こ? 」





黄瀬くんが、他の女性とキスをしていた。呆然と立ち尽くす私を見て黄瀬くんは計画が成功した子供のような表情を浮かべて、私にこう言ったんだ。





「 ナマエっち、もうサヨナラッスね。バイバイ。 」





声も、出せなかった。隣にいる女性は私より何倍も綺麗で、可愛くて、私が空気みたいに感じる。嗚呼、両目から流れるこの涙は、なんなのだろうか、この気持ちは、なんなのだろう。悔しいじゃない。この気持ちは、





『 悲しい、んだ…。 』





もっと早く、黄瀬くんの気持ちに気付けばよかった。両目から流れ出す涙が抑えきれなくて私の頬を濡らしていく。君は、手の届く範囲にいたのに、私は君の手を離してしまったんだ。きっと全部、私のせいなんだ。





黄瀬くんが此方を見て目を見開き、唖然としていた。その表情さえ、私の心は重くなっていく。でも、でも、黄瀬くんにお似合いの女性が出来たことが、何よりも、何よりも嬉しく感じて、でも、悲しかった。今、お別れの言葉を言おう。





『 ありがとう、黄瀬くん。 』





黄瀬くんは私に向けて手を伸ばし、その手を見ずに俯かせていた顔を上げて笑顔で、はっきり告げた。背を向けて走り、君に伝えたかった言葉を、心の中で呟いた。





――ごめんね。





黄瀬くんの笑顔が、走馬灯のように脳内を駆け巡る。伸ばした手が触れることは叶わないのを、初めて知ったこの日を、私は、私は、忘れない。





――君に、謝りたかったこと。









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