時々、彼の寂しげな表情が私の胸に重く突き刺さる。いつも隣にいるのに、心に靄がかかったような表情を彼は浮かべ、どうかしたのかと聞いてみると彼は何もなかったかのようになんでもないのだよ、と告げてくる。





「 ナマエの体温は暖かいな、今の時期は離れ難くなるのだよ。 」



『 そう、ですか。…緑間くんは手が冷たいですね。 』





そう、控えめに、寂しげに呟く彼を見たらまた胸が切なく苦しくなる。一緒にいるのに、こうして手を握っているのに、何故だろうか、胸が、苦しい。心臓は握られているようにキリキリと痛い。





「 …ナマエは、高校何処を受けるんだ? 」



『 …征兄さんが行く高校を一緒に受けなさいって、父さんが…。 』





私の家は父さんが全て物事を決めるようになっている。それには母さん、そして征兄さんすらも逆らえなく、私は征兄さんに従うように言われているから中々自分で行動ができない。全て父さんが家の中心になっているからもう、誰も逆らえない。





「 そうか…、俺は秀徳高校を受験するのだよ。 」



『 …そっか、緑間くんなら絶対に受かるよ。 』



「 ナマエのお墨付きなら受かる気がするのだよ。 」





するときゅう、と優しく握ってくれる彼の手を握り返すとまたもや彼は心に靄がかかったような表情を浮かべ、ピタリと足を止めた。此処の坂を登りきれば、もう少しで分かれ道が待ち受けている。





夕日に染まっている坂を見上げてから此方を見てくる彼の顔は、とても綺麗だった。でも、何故だかその表情は悲しげで、胸が切なく痛み始める。嗚呼、この痛みは何なんだろう。何かの病気なのだろうか。





「 ナマエ、 」





その切なそうに私の名前を呼ぶ彼の声でさえも、私の胸を締め付けた。どうしたらこの胸の苦しみはなくなるのかと考えていたら、緑間くんは不意に私の握っている手を引き寄せ、身体を抱き締めた。





「 …来年も、この先もずっと一緒に居たいのだよ。 」





彼の言葉に両目を見開いた。呆然と立ち尽くせば彼はすまない、と謝りながら身体を離し、私の手を握り直して坂を登り始めた。そのまま無言で坂を登りきり、分かれ道の目の前に立つと彼は振り向いて告げた。





「 俺は、お前と一緒にいれて幸せなのだよ。 」



『 緑間、くん。 』



「 それじゃあ、また明日。 」





嗚呼、私が父さんに逆らえる勇気があったら、彼と同じ高校に行けたのかもしれない。彼の言葉と行動に今、気付いた。





君に今、言えなかった言葉がある。





『 ――寂しい、よ、緑間くん。 』





呟いた瞬間、両目から透明な雫が滴り落ちた。それは、しょっぱくて、今の私の気持ちを表していた。





私が言えなかった言葉は、





――君にそばにいて欲しかったこと。









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