《 偽りの咎人 》
「 先程は申し訳ありません。 」
「 い、いえ!此方こそ…。 」
「 それで、私に何かご用でしょうか? 」
ヨナが声龍直々に案内されてたどり着いた場所は声龍の自室であった。豪華な装飾を施されたカーテンに椅子、そして机。声龍は口を開き、内容は何かと問い掛けた。
「 …貴方の力を見たいの。 」
「 私の力…ですか。 」
「 一度だけでいいの、見せてくれないかしら。 」
扉の前に立ったまま動かずにハキハキとした口調で喋り、力を見てみたいと告げるヨナを声龍は背を向け、顔をしかめる。忌々しげに唇を噛み締め、ヨナ達が訪れる数分前の事を思い出す。
「 暇ねぇ…。 」
数分前、彼女は自室の椅子に深く腰を掛けては足を優雅に組んで寛いでいた。はだけた胸元に、白く透き通る柔肌を露出していた。
自室で寛いでいる彼女は不意に空いている窓を閉めようと立ち上がり、近付いた。声が聞こえ、彼女は窓の下を何事かと覗き込んだ。
「 一度だけでいい、声龍に会わせてほしいの。 」
嗚呼、きっといつもの力を見せてほしいと頼みにくる役人だろう。毎回毎回嫌になるわね、本当に。けれど、此処で力をいい加減に見せなければ信頼を失ってしまう。此処まで、贅沢をしたいがために積み上げてきた信頼が。
力の見せ方は簡単ではない。だって、私は本物の声龍じゃないもの。ただ声と容姿が綺麗だから声龍を偽ってあの貧乏な生活から抜け出せた。ヤン・クムジの支配下からも。
この生活を壊されたくがないために声龍を偽ってきた彼女にとって声龍の力は必要不可欠と言う物となっていた。兵士を騙し、自分を偽り、村人達を欺いてきた。もう、此処まで信頼を得てしまった。
「 どうぞ、お入りください。 」
もう、後戻りは決して出来ない地点に立ってしまった彼女は、自分の罪を見抜く者達を招き入れた。
「 …声龍? 」
「 あ、すみません、考え事を…力を見たいのですよね。 」
「 えぇ…是非とも見たいわ。 」
此処からが、悲劇の幕開け、そして、悲劇の終幕の始まりだった。
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