《 解けた糸 》







『 それじゃあ、行ってくるね。 』





昨夜に言った旅に出ると言ったナマエは淡々と準備を進め、翌朝には準備が終わって今、こうして晴れた雲一つない晴天の青空の下に中くらいの鞄を片肩から斜めに下げてその上にベージュ色のローブを着ている。





従者達は朝食の準備に入っている為に、門の前にはナマエとスウォン、そして二人の門番の姿しかない。フードを深く被るナマエを一瞥してからふわりと、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべてナマエの右手を握って自分の顔に近づけた。





「 無事を祈っていますよ。 」





言葉を述べてから双眼を伏せては握っているナマエの手の甲に口付けを落とし、スッと離れるスウォンを少し頬を赤く染めて呆然と見つめるナマエ。数秒後にハッ、と我に帰ると背を向けて少し振り向き、告げた。





『 か、帰って来たら甘い物を沢山用意してね。 』



「 はい、約束ですよ。 」





ふわり、ともう一度スウォンが微笑んだ瞬間に一陣のそよ風が頬を撫で、スウォンが目を開けた時にはもう、ナマエの姿は消えていた。そこにいた印として、ロベリアの花の匂いが薄く漂っていた。





「 さようなら、愛しき人。 」





ああ、やはり止めることなど出来なかった。行かないで欲しいとあれほど願っていたのに。小さな頃から抱いていたこの感情は彼女にはもう、届くことないまま朽ち果ててしまうのだろう。





初めて会ったあの日、とても綺麗な、魅力的な女性だと感じ、あれからまた会えないのかとそわそわとあの日会った廊下でうろうろとしていた自分。今思い出すとあの行動は無意味だったことだと気付かされる。





だけれども、今はああしてまた会えたのだからそれはそれで嬉しいと感じるのだ。スウォンはナマエが立っていた場所を一瞥し、口許に微かな微笑みを浮かべた。





「 また、会えることを願っています。 」





スウォンの儚げな呟きは、誰の耳にも届くことは無かった。双眼を静かに伏せて愛しき人を瞼の裏に思い浮かべてから再び開き、服を靡かせて城へと足を踏み入れた。





『 …さようなら、スウォン。 』





もう少し一緒に居たかったな、と呟こうとする唇を噛み締め、声にならないように喉の奥底で抑え込んだ。柔らかな風が暁の髪を靡かせて空中に小さく揺れていた。





服を靡かせて城へと足を踏み入れて戻っていくスウォンは、私の知らないスウォンのような気がして、そう呟いた。木の枝に座ったまま、足を組むとアオザイの下に着ている白いスリットが風で靡き、紅い果実を一口齧って空中に投げ捨てた。





『 甘き別れを、声龍。 』





そう儚げに呟いたナマエの口元には酷く歪んだ笑みを浮かべていた。手が届かない、空を仰ぐ様に見上げれば汚れ一つない青空と太陽が自分を見下していた。紅い果実が地面に落ちた瞬間、紅い彼岸花が木の下一面に円上に咲き乱れた。





咲き乱れた瞬間に木は養分を吸い取られ、葉が空中に舞った時にはもう、ナマエの姿は忽然と消えていた。





『 おはよう、声龍。 』





_____彼女の声は、誰の耳にも届くことなく消えた。









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