《 君と僕の存在 》
「 全く…余計な事をしてくれました。 」
部屋の中心にあるミニテーブルの前に立つセンの片手には赤い布の上に透明な水晶が鎮座しており、中には身体を縮ませ、心臓には深々と剣が貫いていた。
遠目から見れば閉じていると思われた両目は良く良く見ると薄く見開かれており、光を宿していない目をしている。センはそれを見つめ、満足気に微笑みを浮かべては水晶を撫でる。
「 まぁ、欲しいものは手に入った…これで私は不老不死になれる。念願の夢が叶う! 」
「 ( さて、どうしたものかな…、 ) 」
ジェハはあれから城内に潜入を果たし、ジェハはセンの部屋を見つけ、扉に耳を添えて中の様子を伺う。中からは嬉しさのあまり感嘆の声を漏らすセンの声が聞こえてきている。
そう言えば緑龍の里、僕の先祖であるガロウからとある声龍の伝説を聞いたことがある。声龍の先祖の一代目、アカツキが水晶の中に閉じ込められる際に行われた事を。
「 声龍の心臓か血を体内に摂取すると不老不死になれるそうだぜ。…なんとも、龍がそれを行うと力も劣れる事なく生き続けられるんだとよ。 」
最初聞いたときは耳を疑った。それは死にたくがないために漏らした言葉なのか。話している時、切なそうに顔を歪めたのを鮮明に覚えている。
「 ( 今思えば、あれは嫌味だったのかな。だとしたらガロウらしいか。 ) 」
ジェハはふと口許に懐かしむような微笑みを浮かべた。そして決意を固め、一歩扉の前から下がると身体を反転させ、一気に龍の力を宿す足を扉へと蹴り当てる。
バンッ、と扉が無理矢理開かれるのと同時に金具が損壊し、扉は大きな音をたてて倒れていくのをジェハは目にもせず足を戻しては一歩踏み出した。カツン、とブーツの音が響く中、焦る声が木霊する。
「 っ、緑龍…! 」
「 彼女を返せ、セン・クムジ。 」
ジェハはゆっくりと恐怖心を煽るように歩きながら冷たい目線を浴びせた。センは突然の事に尻餅をついてしまい、手に持っていた赤い布と共にナマエが封じ込められている水晶を落とす。
落ちた水晶はコロコロと足元を転がっていき、やがてジェハの靴先に当たっては止まった。ジェハは水晶を拾い上げると中を覗き込み、中にある何かを理解し、ゆっくりと目を見開いた。
「 ナマエ…! 」
ジェハは驚きの声を漏らすとセンを睨み付けた。自分が好意を寄せている女性の胸に剣を突き立てた男を許せない、とジェハは心の中で呟いた後に廊下から聞こえる忙しい音に舌打ちをした後に窓から飛び降りる。
両腕に愛しい女が閉じ込められた水晶を大事そうに抱え込みながら、ジェハは森を走り抜けた。
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