《 葛藤が零れ落ちる 》







「 …もう、いいの? 」





 白い空間の中で目の前に立ち尽くす、私と似た女性が問い掛けた。鮮やかな紫色の髪を揺らし、微かなに微笑みを浮かべて首を傾げる彼女を私はそっと口許を緩ませ、そっと告げる。





『 うん、もう満足した。 』





 閉じ込められてからもう二度と見ることが出来ないと思っていた、鮮やかな外の世界。小さいと思っていた外の世界は、綺麗な多くの命が溢れていた。暖かい陽射しに、暖かい人々。





「 本当はまだ心残りがあるんじゃないのかな? 」



『 …うん、ばれちゃったみたいだね。 』





 両目を伏せれば目蓋の裏には鮮やかに浮かんでくる、あの人の微笑み。束ねた緑色の髪を揺らして笑っているあの人を、思い出すと胸の奥が疼くのだ。初めての感覚に戸惑ったけれど、今なら分かる気がする。





『 この気持ちは、恋なんだって。 』



「 …好きな人がいると言うのは、いいね。私はそんな暇なんてなかった、何より想う人がいなかったもの。 」





 切なそうに彼女は笑う。でも、ふと感じた頬に添えられた手のひらの体温は、とても暖かくて。言葉を言おうとした瞬間に、口を閉ざした。彼女の両目から流れる透明な雫が何も云わないで欲しいと物語っていたから。





「 次があるのは、諦めているから。貴女には、私のようになってほしくないの。だからね、 」





 ――私の分まで、生きて幸せになってほしいの。そう言って彼女は消えた。頬にまだ残る暖かさに自分の手のひらを重ねて、口許を緩ませた。彼女がきっと、先祖の声龍であるアカツキなのだろう。





『 きっと、残酷な運命でさえヨナは切り開くんだろうな。ヨナは私が持っていない強さを持っているから。 』





 背後から規則的な足音が聞こえて振り向いた。振り向いた先には私の愛しい人達が此方を見て立っている。凛々しい表情を浮かべ、此方をじっと見つめる彼らを私は微笑んだ。





『 …ありがとう、大好きな皆。 』





 微笑んだ瞬間に、閉じた両目から幸せの涙を流した。










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