《 掠れて消えた声 》







「 泣いている君より、笑っている君の方が僕は好きだよ。…だから、泣かないで。 」





ジェハは苦笑を浮かべ、差し伸べた自分の手のひらに重ねられた華奢なナマエの手を握り締めた。前より幾分細くなってしまった手を見て心が痛むのを感じながらそっと乗せられた手を引く。





人形のような生気の感じられない目付きに、白い肌を滑る暁の髪を撫でると彼女は薄く微笑んでは細くて白い手を僕の頬に滑らせた。生暖かい体温に涙腺が緩みそうになるのを堪える。久し振りに触れることのできた彼女は、淡い微笑みを浮かべていた。





『 あ、りがと…、 』





か細い声と共に、彼女は崩れ落ちるように意識を沈ませ、身体が此方へと倒れ込む。咄嗟に抱き込み、引き寄せるのと同時にジャラリと言う金属同士が擦れ合う音が聞こえ、彼女の足首を見てみると足枷が嵌められていた。





ジェハは無意識の内にナマエを抱き込んだまま右足をゆっくりと上げ、鎖に向けて降り下ろす。何度も何度も踏みつけ、振動によって馬車は揺れ、木の床は軋んでいく。するとビシッと音がなった瞬間、ジェハの脚は止まった。





「 あ…、 」





ジェハの視界に入ったのは粉々に粉砕された鎖だと思われる、鉄の塊。鎖はジェハの強靭な蹴りによって粉砕され、断ち切られてしまった。床には踏みつけた痕が無惨に残っていた。





「 怒りのあまりに我を喪い、龍の血が騒いだか。 」



「 …どうやら、僕は君に優しく出来ないようだ。 」



「 元々優しくする気なんて無いくせによく言いますね。 」





センは笑みを深め、足元に転がっている鎖の残骸を見つめ、薄く目を開いてはゆっくりと振り向いたジェハの表情を見捉え、再び口を開いた。ジェハの憤怒を手のひらで弄ぶように、ゆっくりと。





「 今の貴方の顔、正に本当の龍の顔ですね。…ふふ、そのまま声龍を喰らってしまえばどうです? 」





きっと、誰もが望む力と不老不死を得ることができますよ。と続けられた言葉を耳にすれば一段と目付きを鋭くさせる。鋭利なナイフのような目刺しに、鋭く尖った八重歯を、酷く笑みを深めて見つめた。





「 ふふ、声龍で遊んだとき、彼女どんな言葉を吐いたと思います?"私を殺して"ですよ、酷く興奮しません?叫んでもがいた後は毎回その言葉ばかり。 」



「 …そう、君は彼女を弄んだんだ。 」





変わらないセンの顔、そして愉しげな声音を憎悪で満ちた表情で聞き届けた。ゆっくりと荷馬車の中から出ては背を向けてヨナ達の元へと歩きだした。歩く度に横抱きにされていたナマエの足枷が音をたてる。





「 ジェハ、まって。 」





ハクに預けられたナマエを見てヨナは背を向けたジェハを呼び止めた。呼び止めを聞いたのにも関わらず振り向かないジェハは立ち止まり、地を這うような声音で話す。





「 ごめんヨナちゃん、今は止めないでほしい。じゃないと、 」





憎悪で腸が煮え繰り返そうだ。と告げたジェハの背中を見てヨナの背中に冷や汗が伝った。この先起こる出来事を想像してみると心に大きな不安が生まれる。





「 憎悪から生まれるは憎悪…か、 」





百目鬼の囁きは、誰にも届かぬまま消えた。









 / 


[ Back To Top . ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -