《 解き明かして奪う 》
「 な、何だ貴様らは! 」
屋敷から遠い場所に向かっている途端にガタリ、大きな音を立てて私を乗せている荷馬車が止まった。何事が気になるも足枷に付いている虚石のせいで力が出ず、壁に体を預けたまま動かずに声だけを聞くことに。ぐぐもった声だが微かに聞こえた声に耳を疑った。
「 我が名は百目鬼。声龍を返してもらおうか、セン・クムジ殿。 」
百目鬼は木の上からクナイをセン・クムジの乗る馬の足元に向けて投げ、道を阻んだ。鋭い眼光に睨まれた兵士が小さく怯えた悲鳴を上げるもセンは微塵も動じず、馬から降りてはクナイを引き抜き、指先で遊んでは百目鬼に向けて投げ、それを百目鬼はクナイで弾く。
「 さ、ナマエちゃんは何処にいるのか吐いてもらうよ? 」
「 緑龍ですか…ふふ、貴方は声龍の事をどういう存在か知っているんですか? 」
「 …君が何を知っていようがどうでもいい。 」
ドクリ、と心臓が嫌な音を上げた。それ以上は聞きたくない、耳に入れたくない、やめろやめろと心が悲鳴を上げるのにも関わらず、私の四肢は耳を塞いではくれない。四肢が、動いてはくれない。
「 …声龍は忌み子なんですよ。言霊が使えるのは先祖の声龍である、アカツキが殺した人々の怨念が生まれ変わる際に今の声龍に蓄積されたからです。そして、不死身なのは殺された村人達が死ぬより辛い目に合わせる、と言う怨念が不死身の血族を造り上げてしまった。だから声龍は、 」
愉しげに、そして愉快にセンは喋り続けた。荷馬車の中にいるナマエに聞こえるように。ヨナは何もできない歯痒さから両の手に握り拳を作り、奥歯を噛み締めた。それを見たハクは大刀を指先が白くなるほど握りしめる。
「 ただの化け物なんですよ。 」
嗚呼、そうだ。私は化け物だったんだ。普通の人のように生きたいと、そう願っただけの化け物なんだ。ビシリ、ビシリ、と罅が入っていくのを感じ、両目から生暖かい滴が伝っていくのが分かった。そっと頬に手を当てると透明な滴が指先を濡らしている。
これは、なに?化け物には必要のないものなのに、何故こんなものが流れてくるの?暖かくて、次々と溢れていくこの液体。私は、こんなものいらない、必要のないもの、なのに、
『 孤独と、絶望に胸が締め付けられて、何かが、壊れそうに、 』
「 忌み子?そんなの関係ないね。現に彼女は―― 」
そっと、扉が開かれる音が聞こえる。扉の前にいた私は、ゆっくりと顔を上げた。スッと頬に添えられた手は大きくて、次々と涙が溢れだしては床を濡らしていった。日の光の逆光であまり見えないけれど、彼の表情は、
「 涙を流してる。…ほら、こんなに暖かい…。 」
――とても、きれいだった。
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