《 眠ったままの淡い唄 》







夢を、見ていた。とてつもなく、嫌で、嫌で、嫌で、長く、終わらない永遠の闇を彷徨う夢を。温かい空間にいたはずなのに、急に冷気が漂ったと思えば直ぐに冷たい空間へと変化を成し遂げた。





それは、今の自分の寂しいと言う感情を表しているようでならなかった。そして、父親に愛されるヨナに対して羨ましいと思う、この感情も。





「 …ナマエ? 」





その夢が、この声を聞くことによって終わった気がした。自分の名を呼び、隣に腰をかけるスウォンを見て無意味な邪な考えを頭を振って脳内から消し去る。





『 ごめん、ちょっと考え事してた。 』



「 …まだ、夢だと思っているのですか? 」





不意打ちだった。まさか、自分の考えがわかるなんてスウォンは侮れないかもしれない。何故分かったのかと問いかけるナマエを見てからスウォンは綺麗な顔に苦笑を浮かべながらその問いかけに答えようと口をゆっくりと開く。





「 そのボーっとしている様子を見ていれば分かりますよ。 」



『 あ、あはは…うん、そうだよね。 』



「 長い夢を見ていたのでしたら、やっぱり今この時間が夢だとも思いますよね。 」



『 …頭では、夢じゃないとはわかっているんだよ、その…怖くなるんだよね。また夢だと思うと。 』





ぽそぽそと喋りだすナマエを一瞥してから外の景色を遠く見るような目付きで見つめ、閉じていた口をそっと開いてゆっくりとした口調で言葉を紡ぐ。





「 なら、一度旅に出てみては如何でしょう。…此処にいるだけでは、夢だとも思ってしまうでしょうし。 」



『 旅…か、それも良いかもしれないね。ちょっと考えてみるよ。 』



「 外の世界に出てみれば色々なこともわかりますし、きっと楽しいことが沢山ありますよ。 」





本当は一緒にいたいと思いながらスウォンは心の中で駄目だ、と自分自身に規制を掛けるように語りかけて小さく首を横に振る。父王を殺したのが私だと解ってしまえばナマエはきっと私のことを嫌ってしまう。





それが嫌だと感じたスウォンは咄嗟にそれを隠すように旅に出るように問う。本当は行かせたくはない、だが事実がバレて嫌われるのも嫌。そんなことを思いながらスウォンは切な気な表情を一瞬浮かべ、ナマエの横顔を眺めた。





いつまでたっても変わらない寂しげな表情を浮かべるナマエの顔は、初めて会ったあの時の面影と少し異なっていた。まだ、幼気だったあの時とは変わり、今のナマエの顔つきは大人の色気を醸し出している。今この時が、止まればいいのに。





『 …うん、決めた。私、旅に出てみるよ。 』



「 そうした方がいいですよ、ずっとここに居るより肩の荷が下りるでしょうから。 」



『 うん、ありがとうスウォン。…早速、今から準備して明日に備えなきゃ。 』



「 ふふ、準備が早いですね。 」





いかないで、と叫ぶ心に規制を掛けて無理矢理笑顔を作ってナマエに語りかけるスウォンに対してナマエはふわり、と優しい笑みを浮かべる。





『 凄く、楽しみなんだよね。外の世界に出ることが怖かったのが嘘だと思える位に。 』





向けられた笑みは今まで見て来た女性の微笑みより綺麗なくらいに見えて、スウォンの行かないでと叫んでいた心は一気に晴れた。そしてスウォンが浮かべていた無理矢理作った微笑みは本物の微笑みに自然と変わった。





「 ナマエなら、大丈夫ですよ、きっと。 」



『 …うん、ありがとう、スウォン。 』





綺麗な夕日が、二人の影を作り、ゆらゆらと揺れていた。









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