《 悲劇のジュリエット 》
風邪を引いてしまった。原因は不明だが、予想によると馴れない環境に滞在しているからなのだと言う。確かに実際、ここ最近一週間に二回と言うペースで血液を吸われていた。
先程使用人によって運ばれて来たお粥を半分残してベッドに再び横になった。本当は全部食べきらなければ駄目だと分かっているのだが食欲が湧かなくて食べきれそうにない。
するとコンコン、と扉をノックする音が聞こえて、はーいと返事をすると扉が静かに開く。珍しく髪を頭の下で結っている黒龍の姿を見て目を瞬きさせ、どうして来たのかと疑問でいっぱいになる。
「 や、林檎食べる? 」
『 毒林檎売りの糞爺は回れ右をしてお帰りください。 』
「 酷いなぁ…ほら、剥いてあげるよ。 」
『 自分の皮を? 』
「 いい加減にしないと血を吸い付くして失血死させるけどいい? 」
死ぬことはないが血を吸われ尽くされるのは勘弁願いたいものだ。渋々と入室を許可し、上半身を起こそうと手をつくと下半身に重みが生じ、顔を上げると切なそうな表情を浮かべた黒龍と目が合った。
彼の名前を呼ぼうと口を開いた途端、唇に冷たく赤い物が触れて目線を下に下げると口に触れたものが林檎だと気付いた。剥いてくれるのではないかと思ったがそのままでも良いかなと考えて小さくかぶり付く。
口を離せば林檎が離され、黒龍が林檎にかぶり付いた。噛むのを忘れて口を閉ざしたまま呆然としていると此方を向き、私の肩を押して馬乗りになり、唇にキスをした。
『 んっ、ふ、ぁ…っ、 』
「 ん…っ、ほら、飲み込んで…、 」
開いた口の隙間から入ってきた林檎の小さな欠片。目線を逸らして噛んで飲み込むと血を欲している象徴である紅色の双眼と目線がかち合い、暫し見つめてそっと黒龍の白い頬に手を添えた。
『 噛みつかないで、優しくして…苦いものはまだ嫌いなの。 』
「 噛みつかないと飲めないでしょ。…まぁ、甘い快楽をあげるよ。 」
チクリ、甘い痛みが首筋に広がった。吐息を漏らすと牙が抜かれ、小さく喘ぎ声を漏らす。徐々に下がっていく唇に驚き、慌てて止めようとすると時すでに遅し。
『 っやめ、黒龍、 』
寝間着をはだけさせられ、心臓の部位にあるロベリアの花の象徴へと舌を這わせられた。ザラザラとした舌に舐められ、肌が粟立ち、口からはひっきりなしに喘ぎ声が漏れていく。
『 ひぁっ、やだ、あっ…っ、! 』
「 は……っ、ん、 」
花の象徴に牙を突き立てられればビクリ、と背中が仰け反った。馴れない感覚に喘ぎ声を漏らし、白いシーツをぎゅ、と掴んでは唇を噛み締めて目を瞑った。血がなくなる感覚と快楽が混ざりあい、胸の奥が小さく疼く。
「 ナマエ…君は俺の物だ。 」
キスするときに離れた彼の表情は、欲望と狂気、そして愛情が混濁した快楽を得た表情だった。
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