《 懐かしい優しさ 》







『 百目鬼、百目鬼! 』



「 何だ、子供のようにはしゃぎよって。 」



『 あれれ、風呂上がりだった? 』





バタバタと忙しく歩き、百目鬼の部屋へと向かうとガラリと扉を開き、溜息を吐きながら言葉を吐く百目鬼。現した姿を見れば首の中間まで伸びた紺色の髪は水気を帯びており、水滴が垂れて肩の着物を濡らしていた。





いつもは見れない扇情的な百目鬼の姿に思わず顔に熱が集中し、顔を俯かせた。何て言えばいいかわからなくて口ごもってしまう。もじもじと指先を動かしていると耳に暖かい吐息が掛かり、小さく声が漏れる。





『 んんっ……っ、なにして、 』



「 顔が赤いから熱でもあるのかと思ってな。 」





両頬に手を添えて顔を上げさせられると百目鬼の三白眼と目線がかち合い、脳内が真っ白になって何も考えられなくなってしまった。呆然と見つめていると両頬に添えられていた暖かい手のひらが離れた。





『 え、あの、その、ごめ、 』



「 いや、悪かった。…茶を出してやる、飲んでいけ。 」





慌て出す私の手を掴んではそっと中に入れてくれる百目鬼。その優しさは何処か懐かしく、暖かい何かに包まれているような気分に陥る。本人は会ったことがないと言うけれど、私は会ったことがある気がしてならない。





「 そこに座ってろ。 」



『 うん、わかった! 』





指示された通りに椅子へと腰を下ろし、百目鬼が去った部屋の奥へ目を向けてから部屋中を見渡す。すると一枚の写真立てが目に入り、目を細めて見つめてみるが運悪く百目鬼が戻ってきてしまった。





「 …ほら、飲め。 」



『 ありがとう、百目鬼。 』



「 お前は、あの女のことどう思っているんだ? 」





手渡された暖かいお茶を飲んでいると百目鬼からの唐突な質問に思わず固まった。昼のあの二人の姿が脳内を過り、自然と表情は暗くなるが頭を振ってから溜息を吐き、もごもごと喋り始める。





『 余り好ましくないかな…温厚そうな身形のわりに中々攻撃的だし…黒龍の幼馴染みだか知らないけれど、相当な嫉妬女だね。 』



「 あの女は幼少期の頃から黒龍様の傍らにいたらしい。…だが、母君が死去してからあまり来なくなったからてっきり黒龍様のことがどうでもよくなったのかと思ったが…その真逆だったようだ。 」





百目鬼はそっと窓の外に目を向けた。つられて目を向けると窓の向こうに人がおり、よく見えないので立ち上がって近づき、覗き込んで見ると腕を組んで仲好さげに庭を歩いている黒龍とクロエがいた。





『 ねぇ、百目鬼。 』



「 ん、なんだ? 」



『 私、今無性に腹が立ってるんだけど。 』



「 それは俺も同じだ。 」





二人はそっと両手に握りこぶしを作り、ナマエは仲好さげに歩いている二人を忌々しげに見つめ、百目鬼は自分の気持ちに気付かないナマエを見て溜息を吐いた。









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