《 背を向けた運命 》







『 …、 』



「 あ、あの…す、すみませ、 」



『 あのさ、何だか君達妙によそよそしいよね。 』





あのクロエだとだとか言う女性がこの屋敷に来てから使用人が妙によそよそしい。私の顔を見た途端に申し訳なさそうな表情を浮かべたり、何か言いたそうに口を開けば直ぐに閉ざして頭を下げる。





それが毎日続くようになって、苛々が降り積もっていく。心配して部屋にやって来た黒龍の側には必ずと言って良いほどクロエが引っ付いている。まるで、私に黒龍が取られないようにとするように。





『 もういい、面倒臭い。 』





踵を返して背中を向け、自分の部屋へと歩き出す。すると振り返った先には仲好さげに腕を組んで笑い合い、歩いている黒龍とクロエの背中があった。それを見てもどうも思わないのは、きっと私の感情が動かないからだろうか。





『 これが運命だとしたら、背けるしかないね。 』





ナマエは二人が曲がった曲がり角を見つめてから、そっと首もとに手を添えて二つの小さな穴を撫でた。きっと黒龍の隣にはクロエがずっと寄り添うのだろう。別に悲しくもなく、ただ虚しさだけが心に残った。





ポタリポタリと暖かい滴が顎を伝って床に落ちていく。それが涙と理解するのは容易かった。この涙は彼女に抱く、劣等感の塊だった。私には出来ない、明るい話し方に愛嬌のある満面の笑顔。どれも私には出来ない、こと。





「 …泣くな、声龍。 」



『 泣き顔見るなんて悪趣味だね、百目鬼。 』





背後から百目鬼が話をかけてきた。振り向くと溜息を吐きながら乱暴な手付きで涙を拭ってくれる。不器用な手付きは何処か懐かしく感じて、涙を拭ってくれている手を掴んで問い掛けた。





『 百目鬼さ、小さい頃に会ったことある…? 』



「 っ、そんなわけないだろう。 」





若干、百目鬼の瞳に焦りが見えた気がしたがそれは手首を掴んだことによる驚きからなのだろう。そっか、と呟いてからパッと手を離すと百目鬼はついさっき私に掴まれた手首を見つめながら話始めた。





「 あの女は黒龍様の幼馴染みなだけだ、黒龍様は何も感情等抱いておらぬ。…そもそも、黒龍様はお前が考えている事とは真逆の行動をしている。 」



『 …あの女って…百目鬼さ、クロエのことが嫌いなの? 』



「 あの女は俺にとって好ましくないのでな、元々俺は女とは関わらん。 」



『 私と今関わってんじゃん。 』



「 ……。 」









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