《 傷痕を照らす蒼き月 》







『 ん…あ、れ…私、何で封印が解けて…? 』





血腥く、真っ暗な空間で目が覚めた私はゆっくりと上半身を起こす。起こすと上半身に掛かっていた布がパサッ、と床に落ちて私はそれを見てから両手を見つめ、何故封印が解けたのかと考えた。





父上様は私に封印を施した当人だ、封印を解除するはずはないし寧ろ一生解かないのだろう。かけられた封印は形を保ったままの封印で、順序があるはず。それを知っているのは父上様か風の部族しか知らない。





ナマエはゆっくりと寝かされていた寝台から立ち上がり、奥へと進む。奥へと進むに連れて血腥い匂いが鼻につき、また一歩また一歩と足を進めるとパシャ、と水が撥ねる音が聞こえて下を見てみる。





『 紅い…水? 』





紅い水、じゃない。この色は私の血液だろうか、この鼻につく血腥い匂いも。目を細めて奥を見つめてみれば三つの壺が割れ、ナマエを縛り付けていた紅い鎖が粉砕されていた。心臓を貫いていた剣も、粉砕されている。





クルリと踵を返して一筋の光が射している扉へと向かうと途中に先程落とした布が見えて、ナマエはそれを手に取って見つめる。まだ温もりを持つそれは、大きな羽織だと言うことに気づき、それを羽織った。





『 暖かい、人の温もり…。 』





そう、人の温もり。自分は人なのか、化物なのか。どうしたら死ねるのか、答えをいつも求めていた。自分はなぜ生まれ、そこから何処へ行くのか。重たい扉に手を添えて押し開くと螺旋階段がすぐ目の前にある。





螺旋階段の一段目に足を乗せるとひやりと冷たい無機質な温度が素足に直に伝わりふるりと震える。ペタペタと、螺旋階段を上っていく度に足音が立ち、やがては外へと出れる扉が待ち構えていた。





此処から外へ出たら、私は何処へ行くのか。何故か、外の世界を見るのが怖いと感じ、畏怖して外へと続く扉に伸ばした手が引っ込む。此処を開ければ外へと出れるのに、それを拒む自分がいる。





此処から出たら、自分は何処へ行くのだろう。屋敷から出たいと切実に願っていた頃の自分が馬鹿らしく思えてきた。長いこと封印されていたこの身体には小さい頃に覚えた些細な知識しか詰まっていない。





私が封印されている期間、何があったのかすらも分からないこの空っぽの身体で、何をしろと、何処へ行けと言うのか。こんなことを考えるくらいならいっそのこと、ずっと封印されたままの方が良かったのかもしれない。





『 怖い、外に出るのが怖いよ…父上様、母上様、ヨナ、 』





その場に座り込む私には、何もできない。暖かいしょっぱい雫が頬を伝い、灰色の地面に落ちていく様を見ていることしかできない。肩に掛かっている羽織を抱き締めてただ空虚に助けを求めた。





『 怖い、怖いよ。 』





外へ出るどころか扉にさえ触れることが億になってしまう。すると、扉が静かに開き自分に影が射すと入ってきたのが人だとわかり、そっと見上げた。まるで月の光のような髪に目線が奪われた。





「 いつまで経っても出てこないので、向かえに来ました。…一緒になら、怖くないですよ。 」





差し伸べられた手をそっと握り、頷くと彼は微笑んで握り返して引っ張る。 引き寄せられてはヨナと同じ暁の髪色を優しく撫でてくれ、微笑んだ彼の顔があのときに会った少年の面影に似ていた。





封印される日の夜に廊下で出会ったあの子供。緩やかな金色の髪を持った青年に、元気一杯のあの青年。もう何年か前のことなのに、何故か脳裏に印象深く焼き付けられていた。





あの頃の彼とは違う、今の彼の姿は大人びていて静かな色気を醸し出している。忘れはしない、あの頃の記憶は。ナマエはそっと彼の頬に手を添えて儚げに呟いた。





『 忘れはしない、その髪も、君の名前も。 』



「 …? 」



『 ありがとう、スウォン。 』



「 …はい、ナマエ。 」





貴方は、優しい声音で私の名前を呼んでくれた。もう少し、彼の体温を感じていたいと心の隅で思い身を委ねた。









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