《 毒占欲という名の愛 》







「 黒龍様、こちらが――、 」



「 嗚呼、資料ならそこに置いといて、後で見ておくから。後、百目鬼にこれを渡しておいて。 」



「 畏まりました。 」





サラサラ、とペンが紙と擦れ合う音だけが響く部屋に一人の従者が資料を持ちながら訪れた。指示通りにテーブルへと資料を置き、渡された一通の手紙を受け取り部屋を後にした。真剣な面持ちのまま書き続ける黒龍にナマエは椅子に座ったまま声をかけた。





『 黒龍、そろそろ休んだら。 』



「 なぁに、俺のことが心配なの? 」



『 無駄口叩けるんなら大丈夫そうだね。 』





本に視線を戻しては感情のない文字を目で追った。本当は心配している場合ではないと解っているが、何故か言葉をかけてしまう。それは、きっと声龍の先祖の心が自分の心に残っているからなのだろうと思う。今の私には、そう思うしかないのだ。





「 ねぇ、ナマエ、 」





『 どうしたのさ、構ってとかは聞かな――、 』





黙って本を読んでいると頭上から声が聞こえて顔を上げて見ると、構って欲しいのかと思い、首を傾げて話し始めた。すると黒龍は右手を徐に掴んではグイッ、と引っ張って自分の口に人差し指を含んだ。





『 え…ッ、ちょッ、やめ――ッ、 』





やめさせるように声をかけてみるも聞き入れずに人差し指の傷を抉るように舌を動かす黒龍。痛みの中に快感も入り混じり、噛み締めた口から小さな吐息が漏れて双眼をきゅ、と強く瞑って羞恥に耐え続ける。





「 ん…ッ、は、 」





クチュリ、と唾液が指に絡まる音が聞こえて、一層恥ずかしくなる。指を引き抜こうと手に力を込めるが男の力にはかなうわけなく、そもそも今の自分は人間と同じ体質になっているために黙ってされるがままになってしまった。





「 ごめん、我慢できない、 」



『 ッ、黒龍、離れ、 』





指から口を離した黒龍はナマエの肩を押し、ソファーに押し倒す。抵抗しようと伸ばした両手を片手で押さえつけ、首筋に顔を寄せては尖った八重歯を白い柔肌に押し付けた。慌てて止めようとするも押さえつけられているままでは出来ずに八重歯が首筋に埋められた。





「 ん……ッ、く、 」



『 あ、ッ、ミン、ヒョク…ッ、 』





段々と薄れていく意識の中、ナマエは黒龍の名前を掠れた声で呼んだ。名前を初めて呼ばれた黒龍は、切なげに顔を歪めて首筋から顔を離した。そっとナマエを抱き上げ、寝室に運び込むと寝かせ、寝室を後にした。





「 …俺は、どうしたいんだろうね。 」





――誰かを愛したいと言う感情が彼の心に生まれた。









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