《 首を絞める縄 》
「 ――アンタのこと何で今更、愛おしく感じるんだろうな。 」
暁の空を見上げていたらふわりふわりと地面に落ちた白い紙飛行機を取り、中身を見て呟く。中に書いてある言葉はあの日に戻りたい、と言う言葉。飛んで来た方向を考えてみるとそれは間違いなく、ナマエが書いたもので。
あの時放った言葉が今頃になって首を絞める縄となるなんて、思いもしなかった俺は奥歯を噛み締めた。すると俺の右目から透明な雫が頬を滑り、手に持っている紙に落ちて滲んでいった。右手を頬にやると微かに濡れていて、泣いているのだとわかる。
――俺は、あの日アンタに出会った時から恋してたんだ。
「 あんた、見たことないな、誰だ? 」
ヨナ姫様と同じ暁の髪に、そして姫様とは違う大人びた顔立ち、凛とした鈴のような声音に心を奪われた。いつまでも、いつまでも、見ていたいと思うほどだった。友達だと告げられたあの時はそうだと思いこんでいた。
一瞬だけ、微笑みを浮かべたあの表情を俺は忘れられなくて、また会えるかと聞いた。そんな問い掛けはアンタにとっては毒同然で、あの時の俺は無神経だと今頃思った。大きくなったら会えると言われた俺は、早く大きくなりたいといつまでも思っていた。
『 じゃあね、ハク。 』
あの時会った時、幻かと思った。でも、暁の髪に凛とした声音でやっぱりアンタだと気付いた。何であの時俺は腕の中に閉じ込めなかったのかと少し後悔した。そして、後悔することがもう一つある。
最低と言った、あの時だ。言っていなければきっとアンタの運命は変わっていたのかもしれない。そっと紙飛行機を折り畳んで懐にしまい込み、綺麗な夜空を見上げてから踵を返して姫様の待つ場所へと足を進めた。
――俺は、もうアンタを逃がしたりはしない。
「 アンタのこと、好きだ。 」
ポツリと心の内に秘めていた言葉を呟いてそっと口元を緩ませた。目蓋を閉じれば、アンタの綺麗な微笑みが浮かんでくる。その微笑みが消えない内に、俺はアンタの手を掴んでみせる。
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