《 不明な心 》







――意味がわからなかった。





『 信じてたって笑うような、幸せの終わりなんてないんだよ。…どうか、君だけは此処で止まらないで。 』





あの時、ナマエちゃんは悲しげな微笑みでそう告げた。あの時のナマエちゃんを思い出すだけで何故だろうか、心臓が鷲掴みされたように軋む。とても切なくて、悲しくて、痛くて、苦しい痛み。今まで、味わった事のない、痛み。




今まで女性と接してきたくせに、ナマエちゃんの前に立つといざとなってなんて言えばいいか言葉が濁ってしまう。あの、綺麗で儚い微笑みを目の前にすると、切なく胸が甘く音を上げてしまうのだ。





「 なんなんだ…ッ、この痛みは…、 」





あの夜、ナマエちゃんに無意識に口付けをしようとした時、ずっと傍に居たいと、離したくないと、この手でナマエちゃんをかき抱きたいとそんな邪な心が沸々と心の底から湧き上がってきた。あの時の心と今も似ていて、胸が苦しく切なく痛む。





ナマエちゃんの隣にいる男があの黒龍だと考えるだけで黒龍に向けての殺意が心の底から沸々と湧き上がる。すると、ヨナちゃんが僕の肩を軽くぽんぽんと叩き、呼びかけてきた。そっと振り向くと目元が赤く腫れていて、泣いていたんだと実感する。





「 ……黒龍について、何か知っているの? 」



「 知りたいなら話してあげるよ。 」




ヨナちゃんがそれを聞いてお願い、と返事を返すのを聞き取れば静かに話し始める。





「 …黒龍の先祖は、声龍と婚姻を誓っていたんだ。けれど、声龍は封印されそのまま朽ち果てた為に黒龍は別の女性と婚姻を果たした。本来ないはずの声龍の血はどうやって受け継がれたかは不明だけれど、確かに声龍は存在してる。 」



「 それが…ナマエ…。 」



「 きっと、黒龍はナマエちゃんと婚姻を結ぶつもりだ。…僕は、 」



「 それを、阻止したいのよね。 」





ズバリ、言い当てられて呆然と座りこんだ。確かに、ナマエちゃんが黒龍と婚姻を結ぶのを見たくなんかない。黒龍が望んでいようが、僕にとってはとても不愉快で仕方がなかった。グッ、と奥歯を噛み締めるとヨナちゃんが呟く。





「 一緒に、助けましょ。 」





その呟きに、僕はそっと頷いた。









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