《 色褪せた時間 》







『 ねぇ、ちちうえさま!きょう、よながね、わたしのことをおねえちゃんっていってくれました! 』





暁の長髪を揺らして、お父様に近づく少女を、私は呆然と見ていた。私とは違う綺麗な微笑みを見て、ハッと我に返った。あれは誰だろうか、何処か見た事のある、懐かしい笑みを浮かべていた。





「 そうかいそうかい、――は幸せかい? 」





温厚な笑みを浮かべてそう告げた父上を見た途端にあの少女の微笑みは一瞬にして消えてしまった。その顔は何処か悲しげでもあり、とても冷たく無表情だった。すると少女の後ろから男の子の声が聞こえ、振り向く。





「 ――、アンタのすきなりんごをもってきた。…いっしょに、たべよ。 」



『 ――!ほんと? 』



「 おや、――くんじゃないか。――のこと、よろしく頼んだよ。 」



「 おひさしぶりです、いるへいか。…じゃあ、――をかりていきますね。 」





ぶっきらぼうに笑みを浮かべて慣れない手つきで少女の手を掴んで走り去っていく少年。あの少年は誰なのかと考えていると景色が急に暗転し、目を閉じて次に開けた時には真っ暗な地下室みたいな部屋にすり替わっていた。途端に、噎せ返るような血の匂いがして思わず口を両手で覆い隠した。





辺りを見渡してみると父上様が遠くの壁を見つめるようにして立っていた。その先にある物を、見てはいけないと思った。けれど、自然と目はそちらの方を見つめたまま動かない。すると扉が開く音と共に一筋の光が射し、奥にあるものが一瞬にして理解できた。





たっぷりと赤い液体が入った壺がずらりと並んでいる。目を見開いているとキラリ、と何かが光を反射して目を瞑る。そっと目を開けると父上の手に握られている剣が視界に入った。まさか、とは思うが父上に限ってそんなこと――。





『 おやすみなさい、父上様。 』





いつの間にか事は進んでおり、我に返った時にはもう、時すでに遅し。父上は手に持っている剣を彼女の心臓に突き立てていた。ずると脱力感に襲われ、両膝を地につけて座り込むと彼女が目を瞑る前に目線を此方に向けた気がして、その視線にゾクリと肌が粟立った。





「 嗚呼、おやすみ…。 」





――ナマエ。





「 いやぁあああああッ!! 」





ガバリ、身体を起こすと目の前にはユンの心配そうな顔と、深刻そうな顔付きをしているハクの姿。その二人を見ただけで心は安堵し、両目から透明な雫を流した。





「 大丈夫?ヨナ…、 」



「 ごめ、なさ、大丈夫、 」





あの夢は、きっとナマエの過去だ。そして、ナマエは私の片割れの姉で、声龍の血を受け継いでいる。最後の過去は多分、封印される時の――。





「 大丈夫だよ、ヨナ。 」





――震える私に、ユンは微笑み頭を撫でてくれた。









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