《 不能な感覚 》







自分に差し出された手を掴むと冷たい体温が伝わって思わず離しそうになるのを堪えてきゅ、と握り締めた。自分より背の高い黒龍をそっと見上げてみると薄らと口元に笑みを浮かべているが、何処か違和感が残る。それは、目が笑っていないからだった。





「 ッ――ナマエッ!! 」





ナマエがあちら側へ行ってしまうと思い、咄嗟に木の裏から身を出して駆け寄った。百目鬼が後ろで構えるがミンヒョクが手で制し、ナマエの肩を押して少し位時間を上げるよ、と溜息を吐きながら告げ、ナマエはジェハの元にゆっくりと近づいた。





『 信じてたって笑うような、幸せな終わりなんてないんだよ。…どうか君は、此処で止まらないで。 』





そっと囁かれた声音は優しく、けれどもジェハにとっては重く聞こえた。ナマエは最後にジェハの耳元に顔を寄せ、さようなら、と一言呟いた。身体を話して踵を返してミンヒョクの元へと向かうナマエを見つめたまま膝を地面につけ、奥歯を噛み締めて段々と潤む視界の中、手を伸ばす。





私は、もうヨナ達を陰で守るしかできない。あの時、ヨナの事を散々悪く言ってしまったし、のこのこと守れるだなんて思ってなんかいない。私は自分で思う以上に強がりで、泣き虫だけれどヨナ、そして君達の知らない強さを知っているから。





『 緑龍、緋龍王を守ってね。 』





最後に此方に振り向き、笑みを向けたナマエをみたジェハは奥歯を噛み締めて伸ばしていた手を下ろし、走り去った。ナマエは最後に辛い苦悶の表情を浮かべて伸ばしてきたミンヒョクの手に触れ、握り締めた。





「 さぁ、遊戯は終わり。…声龍、君は俺のものだ。 」





腕を引かれ、ナマエとミンヒョクの影が重なった。ナマエはこれはなにかの悪夢なんだと信じきるしかなく、静かに双眼を閉じた。背後にいた百目鬼が両手に握り拳を作り、ギリッと奥歯を噛み締めた。





重なった唇が離れるのと同時に黒龍が背を向けて手を引き、歩き出す。唇に不快感を感じながら手を引かれるがままについていくと百目鬼が此方を何か言いたげにじっと見つめてから目をそらす。





この手が、この握れている手があの人の手だったらどんなにいいことか。すると、チクリ、胸を刺すような痛みが襲い、目を見開く。嗚呼、病気にかかってしまったのだろうか。変わってしまったのだろうか、何もかも。私は心の中で馬鹿みたいに笑う。





――私は、もう一度彼の手に触れたいと、心の中で叫んだんだ。





あの時見た、切なげの彼の表情が閉じた目蓋の裏に浮かばれた。









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