《 愚かな咎人 》







「 そう、俺に口付けをすること。…緑龍はやっぱり賢いね、俺の見込んだ通りだよ。」





ミンヒョクは口元を三日月型に歪め、ナマエの首に空いている二つの穴を赤い舌でピチャリ、と一舐めした。羞恥に震えるナマエの表情をそのまま見つめ、そっとナマエから離れて村の奥へと姿を消す。ナマエは自分の不甲斐なさに唇を噛み締め、遂には涙が溢れ出す。





「 ナマエちゃ…、 」



『 何で、来たんだよ。 』





ポツリ、呟いた言葉は重く、ジェハは目を見開く。本人達は手助けのつもりできたつもりが、ナマエにとってそれは横からの茶々入れとしか受け取れなかった。ヨナ達があの時来なければ、ミンヒョクに血液毒を流し込まれることも、こんな屈辱を浴びせられることだったなかったはずだった。





ポタリポタリと砂の地面にナマエの涙が落ちていき、落ちた涙は地面を茶色く変色させた。なんで私がこんな目に、なんで私だけなんだ、と心の中で深く、ある人物を憎んだ。そう、自分と片割れの妹、暁の髪を持つ、ヨナを。ナマエは口元を綺麗に歪めては顔を上げた。見つめた先には、ヨナの姿。





『 ヨナ、君さえいなければ私はこんな辛い運命を背負わなくて済んだんだ。 』



「 そなた…ッ! 」





そう、この声龍の血で部屋に閉じ込められることだって、この感情も、全部なかったことになるはずだったのに。ナマエは嘲笑い、そっと心の中で悲しい笑みを浮かべた。淡々と告げてみせるナマエにヨナは目を見開く。嘗て父親、イル陛下はヨナに姉がいると伝えていた。





自分と同じ、暁の髪。それをじっと見つめたまま、呆然と立ち尽くしていた。まさか、この人が私の姉上では、と考えていると思い出される、走馬灯のように流れ出す記憶。自分の名前を綺麗な笑顔で呼び、手を差し伸べ、それを小さな手で掴む、赤子の自分。これで分かった、貴方は、貴方は―――、





「 姉上、様…。 」





フッ、と意識が遠のき、ヨナは地面に倒れた。ハクはすかさずヨナの身体を抱き上げてナマエを鋭い眼光で睨みつけた。ナマエは嘲笑うような笑みをハクの表情とは対照的に浮かべてユラリと立ち上がり、光のない目付きでハクとヨナ、そして他の三人を捉えてからヨナを見つめた。





『 ヨナなんか、死んでしまえば良かったのに。 』





放たれた言葉は、もう二度と消えることはない。そして、ハクは大きな大刀の鋒をナマエの首筋に向け、鋭い眼光を宿した目でナマエの顔を見つめ、吐き捨てた。





「 アンタ、最低だな。 」



『 殺せるものなら殺してみなよ、弱い獣が私に勝てると思ったら大間違いだね。 』





ブツリと皮膚が切れる音がし、ナマエの白い喉元から赤い血液が流れ出してはハクの大刀を伝って指先へと流れ着く。ナマエは光を宿していない目付きでハクを見捉えたまま、小さく呟く。





『 君は、死にたい? 』





ハクは大刀を落としてその場に倒れた。それを見つめてから足元に擦り寄るハクアを見てから少し、目を見開く。その小さな反応をシンアは見逃さず、心の中で呟く。





「 ( 声龍は、嘘をついてる…。 ) 」





心の中で呟かれた声は、誰にも届かぬまま消えた。









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