《 ヒトヒラのハナビラ 》







あれから街から戻り、夜になった。綺麗な音色が聞こえて海岸に行くとジェハが楽器を弾いており、月明かりに照らされたジェハはとても綺麗だった。そっと近付いてジェハと背中合わせになるように座り、話を掛けた。





「 …怪我は、治ったのかい? 」



『 うん、ただ貧血気味だけれどもね。…ジェハも怪我は大丈夫なの? 』



「 当たり前さ、僕は頑丈だからね。 」





そう、と返すナマエの表情を見たいが背中に寄りかかられているせいか上手く表情が見えなかった。ジェハはフッ、と笑みを浮かべてはそっと満天の星空を仰ぐようにして見上げ、溜息を吐く。





「 ナマエは、これからどうするのさ? 」



『 …もう、自分の我儘はやめることにしたよ。今更景色を見るなんて老い先短いおばさんがやるようなこと、やってらんないしね。 』



「 それじゃあ、ヨナちゃんについていくの? 」



『 …そう、だね。私はできればそうしたい。 』





ヨナの綺麗な両手を血で染めたくはない。そっとジェハに体重を掛けて寄りかかるとジェハは痛い痛い、と言う。嗚呼、そういえば怪我してるんだったなと思いながらジェハの方に向いて怪我をしている肩に触れ、呟く。





『 ヨナを守ってくれてありがとう。…お礼はまた今度…ッわ…!? 』



「 今度、じゃなくて今欲しいんだけどな。 」



『 ちょ、ジェハ…ッ、 』





後頭部を引き寄せられ、ジェハが此方を向いて唇と唇触れそうになるくらい近付き、慌てて離れようとするも力が強く、離れられそうにない。覚悟して目を瞑った時、後頭部を支えていた手が離れて身体が離れた。





僕は、今何を…。彼女に触れたいと言う気持ちが高まって、衝動でついあんなことを…。後ろを振り返ってみれば彼女は俯いていた。もしかして、怒らせてしまったのだろうか。だが、ちらりと見えた彼女の耳は赤く熟れた林檎のような色をしていた。





『 …恋人の関係じゃないんだ、その、やめてほしいよ。 』



「 ごめん、冗談だよ。 」





新鮮すぎる彼女の反応は、僕の思考を狂わせるには十分な仕草だった。僕はこの狂いを抑えたくて、心の中で一息をつく。すると、ナマエちゃんが此方を向いて赤い顔のまま儚げに、微笑む。





『 今日は、本当にありがとう。 』





――そっと微笑んだ彼女の表情は、とても綺麗だった。









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