《 闇を生きる 》







「 こちらになります、スウォン様。 」



「 これが…声龍…。 」





厳重に施された南京錠に鍵を差し込み、開錠をして重たい扉に両手を添え、押し開く。中に足を踏み入れるとカツン、と足音が響いた。奥に進むに連れて血の匂いが噎せ返るほどに充満し、あちこちに血痕が斑模様のように散らばっている。





金の髪を揺らし、立ち入ってはいけない禁断の場所へと足を踏み入れるスウォンは鎖で壁に縛り付けられている暁の髪を持つ女性に目を向けた。心臓に突き刺さっている剣の刀身は時折見え隠れし、赤黒く染まっている刀身を魅せた。





縛り付けられ、心臓に剣が突き刺さっている姿は通常の人間にとっては最早見たくもない姿だが、スウォンにとっては汚れの知らぬ女性に見えるのだ。穢れ無きままの姿で封印を施されても尚、成長を成し遂げている。





妹の存在だったヨナと同じ暁の髪は顔に掛かっており、膝まで伸びていた。数年経っているのならば当然、地面に付くくらいの長さになっている筈の髪は綺麗に手入れを施されており、髪には黒百合を象った綺麗な簪がそう物語っている。





「 封印されているはずなのに…成長しているとは…。 」



「 彼女は声龍です。声龍は言霊を操り、歌で人々を使役することもできる。まだ幼い彼女は力を制御できない為に妹のヨナが生まれて大分育った後、父王に封印されたんです。 」



「 父王に…では、ヨナ姫に影響がないようにする為に…。 」



「 恐らく、そうでしょうね。話はここまでです、封印を解きましょう。 」





スウォンは一言だけ告げてから何も言わずにせっせと真ん中に置かれた血で満たされている壺を倒し、中に入っている血を全て出す。全て倒し終わると辺り一面が血腥くなり、血の海が広がっていた。倒された壺からは、赤い鎖がまだ飛び出ている。





これが全て彼女の血なのかと思うと何故か胸が軋むように痛むと、スウォンは胸元の服を握り締め、血の海から一度出て壁に縛り付けられている彼女を仰ぐ様に見つめて一言呟く。





「 あの頃と、面影が何も変わらないですね。 」



「 会ったことがあるのですか? 」



「 小さい頃に、ですが。あの時、きっと彼女の行き場所は此処だったのでしょう。 」





あの時の自分は酷く無神経だとスウォンは思った。3本の剣を手に持ち、一本目を左の壺に向けて投げる。投げては当たって砕け、残りの二つの壺にも剣を投げた。





全ての壺が割ると彼女を縛っていた鎖が砕け散り、血の海に身を委ねられてしまう前に駆け寄り横抱きに受け止める。心臓に刺さっている剣に手を掛け、ゆっくりと引き抜こうとするがスウォンは戸惑う。





彼女は覚えているのでしょうか、私のことを。剣を持つ手が小さく震え、眉を八の字にしかめるスウォンはとても悲しい目付きで彼女を見つめていた。落ち着け落ち着けと、何度も心の中で呟き、そっと剣を引き抜く。





やがて引き抜き終わると剣はバキン、と音を上げて壊れ、彼女の胸の穴は塞がっていく。口元に手を当てると先程まで息をしていなかったのに今はしているのがわかる。今なら、彼女の主になることだってできる、のに。





「 でき、ない。 」





自分の血液を彼女の胸の穴に垂らすだけなのに、何故か彼女を私に縛り付けてはいけないと、そう感じてしまう。自分の腕の中にいる彼女を見てから黒百合の簪を抜き取り、懐にしまった。





きっと此処で契約を交わしてしまえば彼女は意識を取り戻しても尚、自分が封印されていたこの屋敷に一生、囚われの身となってしまう。そんなことを望みたくはない。





「 …契約はなさらないのですか? 」



「 彼女を縛り付けてはいけないと、感じただけです。 」



「 ……そうですか。 」





起きたらきっと自分からここから出て旅に出るのだろう。けれどもし、彼女が私を覚えていてくれて会いに来てくれたのなら、それもまた一興。そっと隅に置いてある小さな寝台へと寝かせてやり、自分の羽織を脱いで身体に掛けてやった。





「 さようなら、ナマエ。 」





彼女の名前が今、一瞬だけ愛おしく感じた。どうか、忘れないでいてほしいと言うスウォンの願いは心の中へとしまいこまれた。彼女の名前と共に。









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