《 百目鬼 》







『 …此処が、先祖が住んでいた町…? 』





視界に映った光景は、とてもではないが見ていられない光景だった。一歩踏み入れれば噎せ返るような血の匂いが充満しており、建物には何十億物の蔦が離さないと言っているように絡みついていた。





扉に絡みついている蔦を手で掻き分け、扉を押し開けると自分の視界に映った光景を疑った。家の中に足を踏み出せばビチャリ、と何かが跳ね、ナマエの白いスリットに付着し、小さく範囲を広げた。





『 沢山の、死体…?何で、これ、誰が、 』





あまりの恐怖感に一歩下がり、途切れ途切れに呟く。目の前に広がる血の海の中心に乱雑に、廃棄処分のように積み上げられた死体の表情は、ナマエに取って助けを求めているように見え、遂にはそこから出て扉を思いっきり閉めては扉に寄りかかった。





『 ――声龍の神域を荒らした罪は重いよ。 』





ぽつり、呟いた言葉は重く、ナマエの心に伸し掛った。閉じていた双眼はスッ、と静かに開かれ、鋭い眼光が降り出してきた雨を睨みつけた。そっと扉から離れると降りしきる雨の中を真っ直ぐ進みだした。





歩いた先には大きな屋敷が立っており、大きな木製の扉に絡まっている蔦をブチブチ、と契っては払い、両手で扉の隙間に手を入れ、力を込めては開ける。開いていく度にギシギシと音をあげるのを無視しながら開く。





『 …蔦だらけ…ッ、鬱陶しいなぁ…。 』





柱のあちこちにも蔦が絡みついており、窓にまでもびっしりと張り付いていた。扉を開くと中にまでも侵食されており、床を見てみるとタイルを突き破って蔦がそこから伸びていた。ひび割れたタイルを一度退けてみれば緑色の蔦が姿を現す。





「 待ち草臥れたぞ。 」



『 誰だい? 』





突如聞こえた声にバッ、と顔を上げ、階段の方を見上げると刀身についている血液を払いながら下ってくる男が此方に鋭い眼光を向けていた。反射的に両袖に手をつっこみ、クナイを掴むと一瞬の隙で目の前に男が迫っていた。





「 我が名は百目鬼。我が主である黒龍様の側近だ。 」



『 それで?私を殺そうって根端かな?悪いけれど、今少々貧血で――ッ!? 』





ペラペラと軽く喋っているものの、実は本当に貧血で身体に余裕がない。走ることも長期は無理に決まっているし、そもそも頚動脈切られて無事なんてありえない話だ。すると繊細な顔が目の前に迫っていて、双眼がゆっくりと見開かれた瞬間にお腹に衝撃が走った。





「 我が主の命令はそなたを屋敷へ連れて行くこと。 」





衝撃で視界が揺れ、お腹を見てみれば短剣が深々と貫いており、血が止めど無く溢れ出している。血が口から溢れ出し、堪らず吐血してしまう。嗚呼、もう視界が澱んできた。意識が朦朧とする中、父上様と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡り、意識を保った。





『 君の、ご主人何てッ、知るわけないでしょ…ッ、!』





ゆっくりと身を引けば刀身が引き抜かれていき、痛みに呻く。ナマエはドンッ、と百目鬼を押し、離れると背を向けてフラフラになりながら走り出す。だが直ぐに酸欠になり、息が荒くなりながらも走った。









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