《 夢に見た存在 》







私の隠している世界は、色のない、感情のない、何も思えない世界だった。母上様が私の次に赤子をもう一人産んだ。暁の髪を持ち、私と違って感情が豊かなその赤子の名前は、ヨナ。





手を伸ばして頭を撫でようとすると、反射的に物を掴むように人差し指を掴んでは愛嬌のある笑顔で笑い出す。そのまま動かないでいると掴んでいる手の力が緩んでパタリ、と柔らかな布団に沈んでいく。





その自然な動きさえ、私には死んだと思うことがあった。規則正しく動く胸さえ、中で獣が肉を貪っているように思えたり、私の世界は残酷な世界だった。そして、このヨナの暁の髪でさえ、稀に白と黒の二つの色にしか見えなかった。





悩みがあったら言いなさいと、父上様は告げた。けれど、言えるわけないじゃないか。私が日頃どう見えているかなんて。私は、私の隠している世界を誰にも言わなかった。言ってしまえば、私はどうなるかなんて目に見えていた。





気がつけば、私は独りぼっちになってしまっていた。隣には誰もいなくて、周りには壁、壁、壁ばかりだった。狭い空間に閉じ篭って、いつしか私の世界は白と黒の混濁した世界になっていた。





けれど、封印される日に、彼らと出会ったんだ。無邪気な少年に、綺麗な微笑みを浮かべる少年二人に。あの透き通る風の中で、また会えると聞かれればもう一度やり直せるだなんて一瞬思えた。





けれど、そんな思いも実るはずなんてなくて、私はあの日、自分が隠した世界と共に封印された。惨めなんだ、ずっとそうなんだ。足して引いて足すだけの感情を振りかざして、私は切り取って笑っていたいのに。





『 そんな事、出来るわけないじゃないか。 』





嘘をついた、本当は逃げたかったんだ。声龍の私が君達の隣にいることからの罪悪感から。止まない心臓音が嫌で、誰かを信じたかった癖に、私は逃げ出せれば楽なのになと、君達から逃げたんだ。君達の、綺麗な微笑みからも。





『 もう、消えない願望なんか見ないでいたいよ。 』





こんな心も、全部君達のせいだ。きっと、そうに違いないんだ。そんな事を思っていたら、いつしか知らん顔して笑っている今の自分がいた。もう、戻れないのに何で、何で、何で、





『 涙が出てくるのかな…、 』





私は、消えてしまっても構わないから、君だけは笑っていて欲しい。いつもと変わらぬ、綺麗な微笑みを。君が涙の海に身を投げたとしても、私が手を離さないでいてあげるから、だからどうか。





『 旅の終わりの夢に見た存在に、私がなれますように。 』





――僕が終わってしまう前に、君が笑う、再開する夜空へ。









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