《 射抜かれる心の臓 》







「 ユン、どうしよう…出血が多いの! 」



「 首の頚動脈を深く切られてる…ッ、もう手遅れだ…。 」





ユンとヨナが話している中、ナマエの双眼がゆっくりと見開かれ、その瞳には生気を宿していなかった。ナマエはゆっくりと立ち上がり、ユンは慌ててその手を掴むが生きている人間の物ではない異常な冷たさに驚き、畏怖してその手を離してしまう。





「 なッ…! 」





手遅れだと思ったナマエが立ち上がったのを見てユンとヨナは揃って驚いた表情を浮かべた。意識のないまま立ち上がったナマエはそれを見向きもせずにフラフラと立ち上がり、血液が流れ続ける首筋を右手で強く抑え、口を開いた。





開いた口の隙間から見えるのは獲物を求めるように鋭く尖った八重歯が見え隠れし、ナマエは舌舐りをしては此方に迫り来る海賊に目を向けた。身体がゆらりと揺れ、そして目の前の男に飛び付き、口を開けては声帯に噛み付いた。





「 え……? 」





ヨナは突飛なナマエの行動に目を見開いて小さく声を漏らした。ナマエがゆらりと男から離れると口元には血液がベットリと付着しており、男の喉元は大きく抉られ、骨までも噛み砕かれていた。





肉は噛み砕かずに掌へと吐き出す。血液が掌から零れ落ち、ナマエは肉塊を海へと後ろ手に投げ捨てるとゆっくりと顔を上げて口を開いた。冷たく、光を宿していない目は男達を畏怖させるような目線を向けていた。





「 ひ、ひぃいいいいッ! 」





男達が武器を投げ捨て、逃げゆくのを手の甲で口元に付着した血液を拭いながら見つめた。そして、冷たく何も思わせぬ声音がある一つの単語を辺りに響かせた。鈴のような声音が、冷たく射抜く。





『 止まれ。 』





すると隣の船に逃げていく男達が次々と海へと落ちていき、ジェハはその異変に気づいて大きく跳躍してナマエの目の前に降り立ち、ナマエを見つめて手を伸ばす。それは空を切り、ナマエはジェハの胸に倒れこむ。





「 ナマエ…? 」





名前を呼びかけても反応がしないナマエを横抱きにしては首の傷を確かめるとジェハは目を見開く。何故ならば、あるはずの傷がそこにはなく、跡形もなく消え去っていたのだから。そっとユンに預けて背を向けるとジェハは大きく跳躍し、クムジの部屋へと向かった。





そのあと、クムジが小舟で逃げていくのをシンアが見つけ、ジェハは首を打ち取りに向かうが弓矢で肩を射抜かれ、海へと身体が落ちて行く。水面に顔を出したジェハにすかさず弓矢を向けてニタリ、と気持ちの悪い笑みを浮かべた。





「 声龍を知っているか? 」



「 …知らないね、そんなの。 」



「 ほう…ならば無知な貴様に教えてやろう。あの赤髪で長髪の女が――、ッ?! 」





言葉は途中で終わり、クムジは見えぬ視線に恐れ慄く。するとクムジは此方に向けて弓矢を向けているヨナを見つけ、それが前に見た事のあるヨナ姫であることがわかると手を伸ばし、クムジの心の臓はヨナから放たれた矢によって射抜かれ、クムジは海へと身を沈ませた。









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