《 悲劇のシナリオ 》
妹のヨナが産まれ、長い月日が経って大きくなっていった。私はヨナには会えないが話だけは父上様から聞いていて、すくすくと育っていったらしい。
この前は風邪を引いたからお粥を作ってやったところ、不味いと言っていたとのこと。私には何も愛情を注いでくれない癖にヨナには愛情を注ぐ父上様。
外には出してくれず、使用人とも話をさせてくれない父上様は今日、私を外に出してくれた。それは今日、私を封印するから、今日が私の最後の日になるから。
そっと襖を開け、月の光を浴びた。冷たい風が私を迎え、腰まで延びている暁のような髪を靡かせる。廊下を歩いていると二人の男の子が私を見つけ、駆け寄ってきた。
「 あんた、見たことないな、誰だ? 」
「 ヨナに似てるからお姉さんだったり? 」
無邪気な二人の男の子達は、はしゃぎながら私の回りをぐるぐると回っては話題を次々と聞いてくる。その光景があの日の私の面影と重なり、目眩がする。
『 ヨナ姫様の友達だよ。 』
ヨナに姉がいることを外部に知られてはいけないと父上様にきつく言いつけられたために疑問符つきだが取り敢えず、ヨナの友達と言うことにしておいた。
「 へー!あんた、綺麗な人だな! 」
『 …あり、がとう。私はナマエって言うの、貴方達は? 』
「 俺はハク! 」
「 僕はスウォンです! 」
『 …いい名前だね。二人とも、ヨナのことを宜しくね。』
二人の頭を撫で、歩き出す。するとハクが私に向けてまた会えるよな?と問い掛ける。また、なんて聞いてくるなんて思ってもいなかった私は無意識に足を止めてしまう。
『 そう…だね、私は今日長い旅にでるから…ハクが大きくなったら会えるかもね。 』
「 じゃあ、俺が大きくなったら会えるか? 」
『 …また会える日を楽しみにしてるよ。 』
唐突すぎる言葉に戸惑うが、今日と言う日を境にもう会えることはない。止まっていた足を動かし、父上様の元へ向かった。行くことに戸惑いを感じたなんて馬鹿馬鹿しすぎる。
数分後、父上様が指定した地下室にたどり着き、階段を下っていけばいつもは厳重に掛かっている南京錠が外れていて、私は扉に手を掛けて重たい扉を押し開く。
「 そこに立ちなさい。 」
『 その前に、父上様にお訊きしたいことが。 』
「 なんだい? 」
『 私は、どうやったら死ねるのでしょうか。 』
我ながら愚問だと感じる質問。何をやっても死なないと言うことは分かっていることなのに、答えを求めないと気がすまないと感じてしまう。
「 …声龍は不死身なんだ。封印しなければ駄目なんだよ。 」
『 …そう、ですか。 』
「 では、そこに立ちなさい。 」
そう言って父上様は持っている剣で奥の壁を指差す。近づけば血生臭い匂いが鼻につく。前に私の血を抜き取ったのはこれに使うためだったのか。
そう思う私の目に写った世界は、血が満たされた壺が何個もあり、赤い絵の具で書いたような紋章が壁に描かれている世界。綺麗な、鮮やかな暁の世界。
「 " 縛 " 」
一つの単語を父上様が口にした途端、壺から赤いなにかが飛び出し、私の両手首を握るように巻き付き、引っ張られた。そして、壁に背中が打ち付けられる。
首に何かが巻き付き、身動きが取れなくなってしまった。固い感触に巻き付いているのが鎖だと初めて理解した。そうしている間に父上様が私の胸元にある紋章に剣の先を触れさせた。
「 此処を剣で貫けば、封印はかかる。…剣を引き抜けば、封印は解ける。 」
『 父上様、 』
「 …なんだい。 」
『 おやすみ、なさい。 』
ふわりと微笑むと剣がズブズブと心臓を貫き、やがては壁にめり込む音が聞こえた。そして、優しい、あやすような声が鼓膜を最後に貫いた。
「 ああ、おやすみ…。」
私は、眠りについた。
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