《 手を伸ばしても 》







『 ( …ハクア、大丈夫かな。 ) 』





此処に入れられて一日は経過しただろうか。そっと溜息を吐いて暗い天井を仰ぐ様に見上げた。すると天井がパカッ、と突如開き、上から二人が降ってきた。突然のことに目を見開き、着地する音を聞けばハッと我に返った。





「 いったた…。 」



「 大丈夫?ヨナ。 」





嗚呼、やはり来てしまった。そっとヨナ達の方に目線を向けると視線にヨナは気付かないが隣の女性は気付いたようだ。視線がかち合い、直様逸らして扉の方へと視線を向けてみると扉がゆっくりと開いて大柄な男が姿を現した。





「 ほう…確かに上玉だな。 」





ヨナの髪を大きな手のひらで鷲掴みにし、顔を近づけて告げる大柄な男は此処の店の主であろうか。目の前で起こる事から目線を逸らし、俯いて終わるのを待った。ただ只管、ことが大きくならないように祈りながら。





「 出して!ここから出して! 」





ヤン・クムジが去っていった後、この後自分がどうなるのか想像できた女性が扉に走って近付き、ドンドンッと両手に拳を作っては扉を叩いて悲痛な叫び声で出して出してと叫び始めた。今さっきの出来事で今の状況が悪くなっているというのに更に悪くさせないで欲しいと、ナマエは心の中で密かに思い始めた。





「 この国を、変えたいとは思わない? 」





最初は無理だと思った。だが、チラリとヨナへと視線を向けてみると決心を固めたような強い意志を宿した瞳が阿波の女性達を見つめていて、女性達はヨナの言葉に頷いた。嗚呼、私にはそんな強い目なんかできっこないのに。





作戦は今日遂行されるらしく、監視の目をくぐり抜け、甲板に出て小さな花火を打ち上げるらしい。監視の目を欺くのはそんな容易なことではないとは思うが、ヨナは仲間も頑張っているから自分も頑張りたいとの事。





「 ところで、アンタ前会ったことない? 」





ユンはナマエがずっと俯いているのに気付いたのか隣に立ち、質問を投げ掛けた。そう、ナマエは一度ヨナ達と会ったことがあるのだ。自分を偽ってまで贅沢な暮らしをしていた女性の自室で。





ナマエは内心焦り、俯かせていた顔は上げずにそのまま喋り始める。今はローブも着ていないこの状況で顔を知られてはマズイ。声は幾らでも変えられると、少し高めの声で人違いだと告げた。





「 …そっか。悪かったね、勘違いだった。 」





勘違いではないが、勘の鋭い人だなと名前は心の中で密かに呟き、この先起こるであろう戦いに自分も参戦する為に今は身体を休めておこうと思い、そっと双眼を閉じて眠った。自分には、手を伸ばしても触れられないモノを諦めながら。









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