《 悲しみの宿命 》







『 ( 可笑しい…店内が暗すぎる。幾ら昼だからってこんなに暗いなんて…。 ) 』





あれから色々町人に聞き込みを繰り返し、有力な情報を得ることが出来た。あのお店にはよく女性の出入りが多いとのこと。男が行っても門前払いで言う事を聞いてくれないらしい。ハクアをアスマに預け、探るために店の中へ潜入することにした。





『 すみません、此処で働きたいのですが…。 』



「 え…? 」





慣れない敬語と作り笑いを使い、大人しめの女性の雰囲気を装って働きたいとナマエは述べ、すると男はナマエを下から上までじっくりと舐め回すような視線を送った。綺麗な鈴の音のような声音に、嫋かな曲線をしている身体。





「 も、勿論!大歓迎だよ、じゃあこっちの部屋で待っててね。 」





男がナマエの肩に触れ、店内の奥の部屋へと誘導した。ありがとうございます、と礼を述べながら作り笑いを浮かべるナマエを見てから男は鼻の下を伸ばさないように笑顔を作ってみせるがナマエにはそれが女を見ることしかできない脳無し男と捉えられてしまう。





『 ( …真っ暗…本当に此処が働く場所…? ) 』





見るからして怪しげな雰囲気を醸している部屋に入れられて辺りを見渡すも、何もありはしなかった。真ん中へと移動をすると何やら床がミシリ、と軋んだ音をあげた。反動で片足を離し、ここから出ようと足を進めた。





『 あッ……!? 』





一瞬のことで何がなんなのかわからなかった。身体がふわりと軽くなり、途端に落下していく。手を伸ばした先には、悪どい表情を浮かべてニタニタ笑っているあの商人が此方を見下していた。嗚呼、やはり罠だったんだ。気付いたときにはもう、相手の手中に入ってしまっていた。





『 ここは…? 』





地に足が着く前にと自我を取り戻し、体制を整えて着地したナマエは辺りを見渡した。暗い室内の隅っこで女性達が此方を怯えた目で見つめてくるのを見てから一つの扉に目を向けて近づく。





『 ( ドアノブがない…中から開けられない仕様になってるんだ。 ) 』





伸ばした手はあるはずのものを掴むはずだった物を掴めずに掠り、目を丸くさせる。ナマエはそっと扉に触れ、ここからどうやって出ようかと考えるが背後から聞こえてきた女性の一声で止まる。





「 無駄よ、此処は内側からは開かないし、出られない。 」



『 …そう、じゃあ待つしかないね。 』



「 アンタ、名前は? 」





諦めて女性の隣に座ると此方を見つめて名前を聞いてくる女性に目を向けた。綺麗な黒髪を羨ましいと思いつつ、名前を教えてあげると空回りな返事が来ると思いきや意外な言葉が飛んで来た。





「 いい名前ね、私はユリ。阿波の住民よ。 」



『 …ユリ、か…いい名前だね。 』





狭苦しい空間から早く抜け出したいと思いながら空回りの返事を送る。こんな話しをしている場合じゃない、早くここから抜け出さないと。そう思うも床に触れている私の両手は何故か小さく震えていた。誰もいない心の中に、小さく助けて、と声が響いた。









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