《 失われた大切なモノ 》







窓のカーテンから木漏れ日が顔に射し、眩しさで目が覚めた。お腹の布団の上に乗り、丸まって眠っているハクアの背中を撫でてあげると薄らと片目を開けて此方を見上げ、欠伸をして前足で耳の横を掻く。





「 ナマエ、アスマだけど…起きてる? 」



『 あ、うん。ちょっと待って、今開けるから。 』





コンコン、とノック音が聞こえ、名前を呼ぶアスマの声がしてからそっと布団の中から足を出し、靴を履く。ベッドに手をつき、立ち上がって欠伸をしながらドアノブに手をかけて扉を押し開く。





「 あ、もしかして寝起きだったり…? 」





申し訳なさそうな表情を浮かべて聞いてくるアスマを見てか首を横に振り、大丈夫と返して廊下に出ようと足を進めた所、スリットが後ろに引っ張られて急な事に対応出来ずにバランスを崩して尻餅をついてしまった。





腰付近を撫でていると何やら肩に重みが生じ、肩の上にハクアが乗ったことが解った。ナマエは溜息を吐いた。アスマは突飛な今の状況を見て苦笑を浮かべながらもナマエより遥かに大きな自分の手を差し伸べ、その手を掴むのを待つ。





『 ごめん、ありがとうね、アスマ。 』



「 ううん、大丈夫? 」





差し伸べられた手を握り締め、引っ張られるのと同時に立ち上がった。触れている手から伝わる暖かい体温を感じてから手を離すとハクアが前足で私の後ろ髪を弄り始めた。嗚呼、擽ったいな。





『 ご馳走さまでした、美味しかったよ。 』



「 そう?良かった! 」





椅子を引いて立ち上がり、ハクアを肩に乗せてからその場を立ち去ろうとするとアスマが神妙な顔付きで問い掛けた。大事なものを無くしたような雰囲気を醸し出しているのを感じながら何?と返す。





「 ユンジェって女性知らないかな…? 」



『 大切な人?知らないかな。 』



「 …婚約者、なんだ。良い仕事を見付けたって出ていったきり戻って来なくて……。 」





アスマの話を聞いてみて予想できるのは、誘拐か遠くの町に仕事をしに行ったかの二つだった。兎に角、一応ユンジェさんの特徴を聞く他ないだろうか。大切な人を失う人を見たくはなかった。





『 ユンジェさんの特徴は? 』



「 黒色の髪で、長さは腰くらいで……右目の下に泣き黒子があるんだ。」



『 分かった。……見付けたら知らせるよ。 』





宿泊料金をテーブルに置いて宿泊所を出た。昨日と気温差がちがく、暑く感じた。ローブは脱いで片手に持ち、ユンジェさんの特徴を思い出しながら歩いているお婆さんに話をかけ、ユンジェさんのことを聞き出す。





「 ユンジェさん?嗚呼、確かそこの建物に入っていくのを見たわよ。」



『 あそこは何をしている場所なんですか? 』



「 さぁ……?あ、確か住み込みで働く場所らしいわよ。」



『 ありがとうございます。 』





指差された建物を見上げてからお婆さんに礼を一言告げて建物に足を運んだ。このときから絶望が待ち受けているとは知りもしなかった。









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