《 無知で浅はか 》







『 ご、ごめん…痛かったよね…、 』



「 ん…いいや、大丈夫。此方こそ余計なことを…、 」





あれからナマエ達は木の上から下りて木陰に腰を下ろし、ジェハは隣に腰を下ろして綺麗な紅い紅葉が咲いた頬を痛そうに撫でていた。痛々しそうなその腫れ方はナマエにとって見ていられぬ光景そのもの。





ナマエは隣に座るジェハの目の前に移動し、膝立ちで立つとジェハの先程自分が叩いた頬に添えられている手の上から自分の手を添え、申し訳なく呟く。生憎治療に関しては無知であり、自分では何もできない虚しさから悲しい顔つきになっていく。





その表情の変化をジェハは見逃さずにナマエの手が自分の手の上から添えられているのを見届けてから、よく表情がコロコロと変わる女性だねと口にこそ出さないが心の中で呟いた。そして、頬に添えられている手をそっと退けると小さく微笑みを浮かべた。





「 大丈夫、僕はそんなに弱くないよ。 」





ジェハの浮かべた小さな微笑みを見た途端に心が痛む。今ジェハが浮かべている小さな微笑みが小さい頃無理矢理父上様の前で浮かべていた自分の微笑みが重なって見えてあの頃の自分が鮮明に思い出された。無知で浅はかな、言い訳の塊だった私の姿を。





『 なら、良かった。…君の名前はなんていうの? 』





ナマエは一度離れ、鮮明に思い出された過去の自分の姿を頭を振って忘れ、苦笑気味にジェハの名前を聞き出そうと話題を振った。自然な動作で聞き出したつもりだが膝に置かれている両手は小さく震えていた。





「 僕はジェハ、君はなんていう名前なの? 」



『 何だか綺麗な響きをする名前だね、私はナマエって言うの。 』





普段のジェハならば女性を見かけた途端に砂を吐くような口調で淡々と喋るのにも関わらず、今日のジェハは何故だろうか、ナマエに向けてはそのようにできなかった。軽い言葉なんてかけたくないと、ジェハの心が規制をかけたのだ。





「 ( 不思議だ…そばにいるとなんだか、暖かい気持ちになる…。この子は、緋龍王ではないはずなのに、何故だ、今無性に…、 ) 」





__________彼女に触れたい。そんな声が出そうになり、頭を横に振ってからジェハはギガン船長が言っていた言葉をふと思いだし、人手が足りないことを考慮してナマエに自ら話題を振った。この時ジェハは自分の傍らに置いて目の届く場所にいて欲しいと何故か思い、それを含めて誘い込む。





「 そうかな?…ナマエちゃん、僕と来ない? 」



『 えっ、でも………、 』





ジェハの急な誘いに驚きを隠せずに狼狽えた。自分が行って何になるのかと。自分の我侭だが、自分はもっと他の場所を、景色を、いろんなことを知ってみたいと思っていた。ついていくかついていかないかと、二つの迷いが交差する中、ハクアは肩に乗ったままペロリと頬を舐める。





『 …ごめん、私はジェハについていけないや。 』



「 …そっか、じゃあしょうがないね…っと、大変だ、もう戻らないとウチの船長が五月蝿いんだ。 」



『 まって、ジェハ、 』



「 ……ん? 」



立ち上がって立ち去ろうとするジェハの手を掴み、静止をかけるとジェハは歩み始めていた足を止め、首だけ振り返り、首を傾げた。ジェハの見つめる視線の先には、ナマエの微笑む表情が見えた。





『 いつか、また会おうね。 』



「 …!約束だよ。 」




木漏れ日の中、二人だけの約束を交わした。









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