《 声龍の稚児 》







「 力…と言うより、声龍は不死身ですから…傷もあっという間に治ります。 」



「 自分を傷つけるの? 」



「 大丈夫ですよ、ほんの少しの傷ですから! 」





昔、声龍が不死身と言うことを聞いたことがある。希少価値な情報で、お金を払ってまで得た。今までは切る振りをしてナイフに血をつけただけの演技をしてきた。





「 ( 大丈夫よ、大丈夫…。 ) 」





ナイフを手に取り、鞘を抜いて切っ先を白い自分の腕へと向けるとナイフを握る手がブルブルと震え始め、気がつけば手元が定まらなくなっていた。声龍は無我夢中でナイフを徐に振り上げ、自分の腕に降り下ろした。





「 ちょっ…! 」



『 昔々、稚児が大きな屋敷に住んでいました。 』





穏やか且、面白味が含んだ声音が聞こえ、声龍の握るナイフの切っ先が肌に刺さる手前で止まった。ナイフが滑り落ちるのと共に、その場にいた者達全員が窓へと振り向く。





『 母親は綺麗な声と容姿で人々を癒し、稚児は病弱で外に出ることすら愚か、声を出すことも儘ならない。声を出したい、思いっきり楽しく歌いたいと思うようになった稚児はある日、大きな事を犯した。 』



「 大きな、事…? 」





窓の縁に腰を掛け、優雅に足を組むナマエは口許を歪ませ、警戒心丸出しのキジャに目を向けてから自分の喉に触れ、とんとん、と人差し指で軽く叩く。





『 稚児は寝ている母親の首に噛み付き、声帯を喰った。母親は大量出血で一瞬にしてあの世へ逝き、それを目にも留めずに稚児は町のあらゆる綺麗な声を持つ女性達の声帯を喰う。 』





柔らかな風がローブを揺らし、喉に触れていた手が下に下がっていき、心臓の真上に辿り着くと胸部分の服を白い掌で握り締める。





『 稚児はいつの間にか声が出るようになり、人肉を喰った事によって化け物扱いをされ、どういう訳か不死身の身体を手に入れ、いつの日か屋敷にやって来た将軍に封印されてしまった…。長年保っていた身体は時が経ち、朽ち果て、次の世代に血が受け継がれた。 』





不意に行動を起こそうとした途端、殺気を感じたハクは大きな一歩を踏み出し、強大な矛の切っ先を一瞬でナマエの喉元に突き付け、それを避けてハクの頬に白い指先を滑らせた。耳元に口を寄せ、優しい声音で囁く。





『 じゃあね、ハク。 』



「 ………! 」



「 ハク!大丈夫…?! 」





駆け寄ってくるヨナを見ながら考えた。優しい声音はハクにとってあの人物を連想させ、そして、ナマエが窓から去るときに谷間見えた自分が仕える主と同じ暁の髪。自分が幼き頃に見たあの女性と同じ声と髪色だった。





「 なんで、今頃…。 」





ハクは彼女に触れられた頬に触れ、両目を静かに閉じては矛を握る手を強めた。





『 またいつか会えるといいね、ハク。 』





暖かい風がナマエの頬を撫でていき、暁の綺麗な髪を靡かせた。ナマエは綺麗な形の唇を三日月型に歪めてはもうじき雨が降る空を見上げて呟いた。









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