枯れる声に気付き始めていた




『…もう、一週間…か。』



 時が進むにつれて体が段々とだるく感じるようになり、痩せ細ってきた。体が細くなっていくのと同時に食欲も落ちて、今まで美味しく食べれていた病院食も食べる量が減っていき、食事が楽しくなくなった。



 もう、自分では立てない体になっていて看護師さんや看護婦さんに支えられないと歩けない状態まで陥っていた。手の力も徐々になくなっていった。鏡を見るのが辛くていつも鏡に布をかぶせてしまう。



 一度だけ、見舞いに来てくれたみどうくんを拒んでしまった。こんな痩せ細った私の身体を見てもらいたくなくて、面会拒否してくださいと馴染みの看護師さんに頼んでしまったのだ。



 今日検温の時間に測った体温計には平温より少し低い体温が表示されていて、もう時期私は死ぬんだと再び実感した。本当は死にたくないのに、神様は酷いなぁ。すると突然病室の扉が乱暴に開かれた。



「っ、何で拒むん!」

『みどう、くん。』



 突然の来訪に驚きを隠せない私は目を見開いてみどうくんを見つめた。よく見ると息を切らしていて、服装が乱れていた。面会拒否したのにも関わらず看護師さんたちを振り切って此処まできたんだ、と今更ながらに解った。



「…ボクのこと、嫌いになったん?」

『………。』

「なぁ、そうならはっきり言えば―――」

『ちが、うの。』



 嫌いじゃない、寧ろ好きだよ。大好き。痩せ細った身体を見られたくないから、なんて言ったら貴方は私を嫌ってしまうかもしれないから。こんな醜い私を見ないで、見つけないでよ。



 するとみどうくんが私の右手を掴んではぐいっと引き寄せた。目尻に溜まっていた涙が引き寄せられるのと同時に流れ出して、頬を伝って布団にしみた。もう片方の手で涙を掬い取るように拭われれば彼が私を抱きしめた。



「そないに泣いてばっかやと分からへんよ。」

『っ、あの、ね、わた、し、余命がもう一週間しかないの…っ。』

「なんで、そんな大事なこと、黙ってたん。」

『みど、く、』

「…ボクぅ、そないな事で名前を嫌いになったりせぇへんよ。」



 ぎゅ、と抱きしめる力を強くしたみどうくんの言葉には嘘偽りもなにもないのだろう。そう、彼の腕が語っていたから。何より、私がみどうくんのことを好きになったから。恐る恐る両手を彼の背中に回すとみどうくんはこう言った。



「ボクぅ、ずっと、名前ちゃんのこと、好きやったんよ。」

『みどうく、』

「やから、寿命が短いとか、体が痩せ細っているとかで嫌いになったりせぇへんよ。」

『う、ん…私も、みどうくんのこと…好き、だよ。』

「せやから、付き合ってください。」



 淡々と述べられるみどうくんの言葉にうん、うん…!と涙を流しながら頷く事しかできなかった。ポタポタとみどうくんの学生服に私の透明な涙が染み込んでいく。号泣する私をみどうくんはどんな表情で抱きしめていてくれたのか、私には知らない。



 ( 枯 れ る 声 に 気 付 き 始 め て い た )




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