浮かべた問いかけもやがては消えた




「名前ちゃん、入るで…って、寝とるやん。」



 夕方午後五時、今日は名前ちゃんに会うために部活を早めに切り上げて病院に来た。ザク共が珍しいなぁ、とかなんだの言っとったのは無視した。病室にたどり着いて扉を開けると布団がこんもりと膨らんでいてボクは静かに近づいて覗き込む。



『ん…ぅ…。』



 覗き込むと安らかな顔で寝息を静かに立てて寝ている名前ちゃんがいて、ボクは静かに椅子に座って寝顔を見たまま起きるのをじっと待つ。じっと見つめてるとかすかにわかる、目元の赤み。



 もしかしてなんかあったんやろな、なんて思っているとカサリ、と布団の中から有り得ない音が聞こえて名前ちゃんがこちらへと寝返りを打った。すると名前ちゃんは昨日ボクぅが書き残した手紙を抱き締めて寝ていた。



 無意識の内に名前ちゃんの頬に手を伸ばしていてやがては頬に触れた。暖かい体温が掌に直に伝わって、心臓がトクン、と小さく音を立てた。なんや、キミぃに触れていると心がざわつくなぁ。



 小さく声が漏れたと思ったら名前ちゃんが薄らと目を開けていてボクぅの方を見ていた。なんや、起こしてしもたかなんて、先程のボクぅの行動を彼女を起こすための行動にしかならなくて。



 本当は早く起きて欲しい、なんて思ってたりもしたのかもしれへんなぁ。名前ちゃんはボクを認識したのか目を大きく見開いてガバリ、と上半身を起こして右往左往顔を向けていた。



『お、起こしてくれても良かったのに…!』

「いやや、寝とるのに声かけたら起きてまうやろ。」

『…そっか、みどうくんは優しいね。』



 ボクぅの言葉にもう一度目を見開いてからふわりと微笑んだ名前ちゃんの微笑みは何処か母さんと似ていた。するとぽんぽん、と暖かい掌がボクの頭の上に乗って撫でてくれていた。



 微笑みながらボクの頭を撫でる名前ちゃんをいつまでも見ていられなくてつい顔をフイッと背けてそっぽを向いてしまった。クスクス、といつまでも笑う声が聞こえて眉間に皺がよりはじめる。



『私ね、みどうくんの優しいところ大好きだよ。』



 ふわりとまた微笑んだ彼女の周りは、幸せの黄色やった。頭を撫でていた手はいつの間にか頬に置かれていて暖かい体温が右頬を包んだ。でも、名前の頬には涙が伝っていた。



『ずっと、傍にいたいなぁ…。』



▼▲



 起きたら頬に暖かい体温を含んだ掌が触れていて、その大きな掌はすぐにみどうくんのものだと解った。「いやや、寝とるのに声かけたら起きてまうやろ。」と言う彼の優しさが心に染みて、頭を撫でた。



 頭から頬へと掌を滑らせるように移動してその真っ白い肌を私の小さな手で包むと伝わる体温に悲しくもないのに涙が溢れた。私も、暖かい同じ体温を持っているのに、もう二週間の命だなんて、正直心に傷が出来た。



 『ずっと、傍にいたいなぁ…。』なんていう私の言葉にみどうくんは大きな目を見開いて此方を見る。すると顔を此方に寄せてきて、私は驚き顔を離そうとする。みどうくんはそれを許さないかのように私の後頭部へと片手を寄せ、鷲掴みにして引き寄せた。



「ずっと、傍にいてはるよ。」



 ベロリ、涙で濡れた頬をみどうくんは舐めた。ひっ、と声を漏らすと私の唇に細く長い指先を添えて大きな口をニヤリと三日月型に歪めて言葉を言った。その言葉にまた涙が溢れて思わず彼に抱きついた。



「ファッ?!」

『ありがとう、みどうくんっ、』

「…礼なんてキモいで、名前ちゃん。」



 みどうくんのいう、幸せの黄色が私たちを包んでいたような気がした。



 ( 浮 か べ た 問 い か け も や が て は 消 え た )




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