バンッと大きな音が応接室中に響いた。
部屋の主は大して驚く素振りも見せず、くあ、と欠伸をひとつ漏らす。
音の元凶は応接室の扉。
スライド式のそれは、加えられた力のあまりの大きさに、反動で二度の往復を繰り返した。
すぐ側に立っているのは女子学生。
腕には生徒会の文字が称えられた腕章。
彼女みょうじなまえの風紀委員長を恐れていないとでも言うような明るい声が室内をこだました。
「 ひ ば り く ん !」
てってってっ、とリズムの良いステップを踏みつつなまえは室内へ入る。
そこで初めて、雲雀は眠そうな目になまえを映した。
「何だい?生徒会長」
「ふふーん、さて、今日はなんの日でしょーか」
質問に対する正しい返答がなかったことに引っかかったが、なまえのことだ、こんなものだろうと雲雀は慣れを最大限に活用した。
まぁそれに、ご機嫌な彼女を見るのは悪くない気がするのだ。
「休日。生徒が学校に来ない日だろう?」
「おしい!」
休日というのは間違っていない。
そもそも、生徒会長と言えど何故休日に登校しているのかが雲雀には疑問だった。
他の回答を催促されたため考えていると、タイミング良く副委員長である草壁哲也が入って来た。
「みょうじ、ここで何をしているんだ?」
「先輩から後輩へ、祝い事の大切さを教えてあげようと思ってね」
草壁くんはもちろん分かるよね、と雲雀にした質問と同じものをなまえは口にする。
間を置かず、草壁は回答を導き出した。
「お前は良いやつだな。委員長の誕生日を祝いにわざわざ休日に足を運ぶとは」
なまえは疑問に包まれる。
5月5日、こどもの日。端午の節句。
なまえはその言葉を望んでいた。
応接室に来た理由は、大量に買った柏餅をただ雲雀たち風紀委員と一緒に食べたかったからなのだ。
「…覚えてた?」
「そう言えば、確かに僕の生まれた日だったね」
本人が忘れているのだから知るわけがない。
しかしなまえは、そんな重要なことを『知らない』でやり過ごすほど空気の読めない人間ではなかった。
心なしか、あの雲雀の目が輝いているように見えるのだ。
「祝ってくれるのかい?」
嘘を付くしかない。「そ、そのためにここに来たんだよ!! ほら、お祝いも。ケーキ作ろうかなって思ったんだけどさ、雲雀くんって甘いの大丈夫か分かんなかったから柏餅!!」
「ありがとう」
雲雀は疑いもせずふわりと微笑んで大量の柏餅を受け取る。
早速食べようか、とソファに座り直した雲雀からなまえは引きつった笑みを全力で隠した。
柏餅でお祝いしましょうか
(ケーキ買い忘れました)
(とっさに嘘つけた私って凄い)
(バレなかった私って凄い!!)