四月下旬。入学式を早々に終え、そろそろ新1年生も高校生活に慣れてきた頃だろう。僕も実質、今年は高校3年生…つまり、受験生になるわけである。

風紀委員としての活動ももちろん、今年が最後だ。おそらく夏休みからは僕も受験勉強というものを始めなければならなくなるし、学校のことを気にかけている場合じゃなくなるかもしれない。今よりずっと忙しい日常になるかもしれないが、それでも少しその喧騒が楽しみであったりもする。



それでもまだ、今は新しい学期が始まったばかりだ。まだ新入生は校舎の中を彷徨き回って迷っているし、授業の内容も変わって在校生も大変だろう。実際自分でも、3年になってからいきなり増えた教材やその内容に少しは驚いたものだ。それに、僕が教室で真面目に授業を受けているのが珍しいのか、同じクラスの者たちは目を丸くしていた……宇宙人を発見したかのような目で僕を見るのはやめてほしい。

僕が授業に出るようになった理由は、ただ受験の為というわけではない。ある人物の影響を受けたからなのだが…僕は今、その人物を探すために校内を歩き回っている最中だ。



(…まったく、今日はどこにいるんだか…)



時に校庭の桜の下、時に中庭の日陰、時に保健室、時に音楽室、時に図書館、時に屋上。寝られる場所なら何処にでも出没するため探すのは容易くないが、今日はこの天気だ。そう思い立って階段を上がり、金属製のドアノブをひねった。



「あ、恭弥くんだ―。今日は早かったねえ」

「毎回毎回寝る場所を変えるの、いい加減やめてくれないかな…」

「だって、今日は天気がいいんだもん。毎日屋上ってわけにはいかないでしょ?」



探し求めていた彼女は、呑気に屋上のタイルの床に寝転がっていた。隣に腰を下ろすと、ご褒美、とばかりに飴を差し出してくる。彼女は初めて出会った頃から、こうして居場所を僕が突き止める度に飴をくれるようになった。そんな自由気儘な彼女だからこそ、一緒にいて心地いいというか。



「……で、今日は何の授業してくれるの?恭弥くん!」

「……はあ…今日は英語ね」



彼女は2年のときから、ほとんど授業に出なくなった。何故か先生たちはそれを許しているらしいが…僕と知り合って以来、たまにこうして授業を強請ってくるのだ。だから僕は真面目に授業を受けるようになった次第である。



「…はあ。じゃあ今日はこのページからね。ノート持ってきた?」

「うん!あはは、楽しみだな恭弥くんの授業」

「恭弥『くん』じゃないでしょ?」

「あ、恭弥先生!」



にこにこと嬉しそうに笑う彼女の頭を撫で、テキストを開く。最初は面倒だと思っていたこの行為も、今なら少し楽しいと思えるし、彼女の隣にいることは、心地がいいとまで思ってしまう。

それはきっと、彼女が執拗に、僕の中に入ってきたりしないからなのだろう。だからそんな彼女の態度が僕は好きだったし、あと少ない高校生活を、彼女と過ごせたら、と思う。



「…ね、恭弥くん」

「…ん、何?」

「……ううん、何でもない!」

「…なにそれ」

「…ふふ…あのね、あたし恭弥くんに出会えて本当に良かった。幸せだよ」

「………?」



彼女はそう言うと、再びテキストに視線を落とした。意味が良く分からなかったけど、彼女も僕と一緒にいることが幸せだと思ってくれていたことが分かって、もうそれだけで満足だ。僕は照れ隠しとばかりに、もう一度彼女の頭を撫でた。



そして、次の日。

彼女は、この世界から消えた。



僕が好きなあの子は
(随分前から悪魔に身体を蝕まれていたと)
(知ったのはその後のこと)




 



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