大学生設定 深夜の電話は良い感じに気怠い。 酒を呑んで上機嫌になったサラリーマンとか、遊び帰りの大学生とか、爆睡してる奴とか、人間性がよく出ている。そんな光景を壁に頭を付けながら眺めていた。気付くと人間観察をしてしまう癖は、中二病真っ盛りの頃から変わっていない。 その人間観察の途中、俺は知り合いを見付けた。 最後にそいつに会ったのはテニス部の同窓会。暗く青みかがった髪が電車の振動に合わせて揺れている。姿勢を正したまま目を閉じて俯くそいつは――幸村は、俺には気付いていないようだった。確か電車で寝るのは嫌いだと言っていたから、目を閉じているだけで起きているのだろう。 じっと見ているのも違う気がするし、なにより気持ち悪い。でもなんとなく視線がそっちに行ってしまう。だから、この行動に深い意味なんて無くて、ただの暇つぶしだった。そんな事を考えているうちに幸村が目を開けた。幸村は携帯で時間を確認すると、目だけで辺りを見回す―――あ、目があった。 幸村は俺を見付けると、一瞬だけ驚いたような顔をして、それから、昔よく見た顔で笑った。だからってわざわざ席を移動するわけじゃないし、俺だってする気は無い。仲の良し悪しじゃなく、特別話したいことが無かった。 各駅停車の電車がだんだん都心部を離れ、町並みも都から県に変わった。人の多かった車内も、気付けば俺と幸村を覗けばOL風の女やサラリーマンが二、三人、それからちらほら大学生がいるくらいだ。あと十も駅を越えないうちに終点に着く。とは言っても、次の駅で俺も幸村も降りるのだけど。 「眠そうだな」 地元駅に着いてドアが開くより前、閉まったままのドアの前で並んだ俺に、幸村が声をかけて来た。そんな行動はどこかで予想していた。ドアが開いて、並んだまま階段へと歩き出す。 「もうテッペン越えとるしな」 「そう言えばそうだね。…あ、そう言えば仁王、」 「ん?」 「この前の同窓会の時、鍵忘れただろ?」 「…キーケース?」 「そう。お前、あの日帰れた?」 「あれ、要らん鍵しか入っとらんし」 どこに行ったかと思えば、やっぱり同窓会の時に忘れたか。言われるままにマジックなんてやらなければ良かった。酔った勢いはろくな結果を生まない。 「まあ良いけど、あれ、今俺が預かってるから今度取りに来なよ」 「ん、メールする」 「早くしないと捨てるからな」 「んな殺生な」 けらけらと笑う幸村は中学や高校の時とは変わっていないように思えた。ほとんど同じ高さの視線も変わらないままだ。 もう改札は目前。そろそろ短い会話も終わる。そういえばカードの残高は大丈夫だろうか。そんな不安とは裏腹に、軽快な電信音と一緒に改札を潜った。残高は三十円を切っている。 「仁王は南口だっけ?」 「幸村は北だっか」 「うん。じゃあね、仁王。」 そう言う幸村に、欠伸を噛み殺しながら手を挙げて返事をした。並んでいた肩が離れて、背中と背中が向かい合う。睡魔が限界まで近付いて来ていた。帰ったらすぐ寝たいけど、シャワーは浴びたい。目下にある小さな悩みだ。ああ、キーケースを捨てられる前に幸村にメールしないと。 こんな距離感どうでしょう |