「まず言うことは?」
「自分がふがいなくて堪りません。本当に本当に申し訳ないです」


今朝の目覚めは、アラーム音すら頭にがんがん響いた。だけど目を開けて映った見慣れない天井に、一気に目が覚める。
おはようございます、と言われ振り向けば、バーナビーさんの恐いくらい爽やかな顔。その顔はもちろん、なぜかベッドに一緒に寝ていたことに驚いて私はシャワールームに飛び込んだ。その後、どうせだからシャワー浴びて下さいと言われ、シャワーを浴び、今に至る。


「…私達、間違いとか起こしてないですよね?」
「ある訳無いでしょう」
「ですよね、あるわけ無いですよね!」


だって酔い潰れて起きたら二人でベッドなんて誤解するじゃない。そんな私の考えが解ったのか、どうして家主の僕がソファーで寝ないといけないのかとバーナビーさん。…全くその通りです。


「あの、バーナビーさん」
「…それ、結構です」
「はい?」
「気付いて無いかも知れませんが、昨日の貴方は敬語も敬称も無い時があった」


だから結構です、と、この理屈はなんだかよく解らない。でも、良いって言ってる以上、そうした方が良いんだろう。


「そうします…じゃなくて、そうするよ、バーナビー」
「で、さっき言いかけてたことは?」
「ああ、うん。ありがとう、話を聞いてくれて、家に運んでくれて」


本当に、とても勝手な意見だとは解っているけどバーナビーに会えて良かった。なにかお礼が出来たら良いんだけど、私の頭では考えつきそうに無い。だから、本人に聞いてみよう。


「なにかお礼出来ないかな」
「そんな気を使わなくても…いや、朝食を頼めますか」
「そんなことで良いの?」


聞き返せば、美味しい朝食を期待していますよとのプレッシャーが返って来た。それから、彼はキッチンの場所を私に言うと、シャワーを浴びるらしくベッドルームから出て行ってしまう。

残された私は、言われた通りにキッチンへと向かった。さっきから思っていたけど、この家広すぎ無いか。けれど、開いた冷蔵庫には一人暮らしの色が見える。…とりあえず朝食を作ろう。軽いものが良いなあ、私の体調的にも。

理由がアレだけど、私がバーナビーの家に上がる日が来るなんて想像もしなかった。会うのだって私がヒーローアカデミーの清掃バイトをしていた時以来だし、その時も彼とは挨拶や世間話をするくらいで、特別仲が良かった訳じゃ無い。よく解らないけど、彼は学内で凄い人気だったし。そう言えば、バーナビーって今なにをしているんだろう。


「まあ、なんでも良いか」


あんまり詮索されるのが好きじゃ無いイメージ。あくまでイメージだけど。

そんな事を考えながら朝食を作っていく。失礼だけど殺風景な冷蔵庫では作れるものに限度があった。そして朝食が出来た頃、バーナビーがシャワールームから戻って来る。


「ちょうど出来たところだよ。朝ってコーヒー派?」
「…ああ、はい」


私を見て、彼は一瞬だけ不思議そうな顔をした。なんでだろうと考えつつ、バーナビーと私の分のコーヒーを入れる。


「誰かが作った朝食を食べるのは久しぶりだ」
「私のこと拾って良かった?」
「プラスマイナスゼロと言うことにしておきますよ」


並んで座った昨夜とは違い、向かい合わせに座った今はお互いの表情がよくわかる。ふ、と笑った顔は柔らかくて、いつもの難しそうな表情よりこっちの方が良いなあと思った。


「ねえ、連絡先教えて」
「またなまえを背負う事になるのは遠慮したい」
「…うそ、ごめん」
「何で謝るんですか。反省ならもう戴いたでしょう」


さらっとバーナビーは論点のズレた言うけど、私からしたら最悪。絶対重かった。なんでもっとダイエットしなかったんだ、私。最悪、最悪…!


「そんな事より、携帯」
「ああごめん…来た、ありがとう。後でメール送るね」


言いながら、一件増えた電話帳を確認する。その時に見えた彼氏の、いや、元彼の名前に、起きてから彼のことを一度も考えなかった事に気付いた。






02.半音下がる朝

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