ベッドに潜り込んで、だけどどれだけ遅くなっても一人では眠れなくて。仕事を終えて帰宅した愛しい人に、「おかえり」と「ヒーローなんて興味無いのに」の言葉を投げつける。

それが、最近の私の日課。


「少しはヒーローを労る気持ちとか無いんですか」
「だって私が頼んでヒーローやって貰ってる訳じゃないし」


にこやかで爽やかなバーナビーも、オジサンと仲良しこよししちゃうバーナビーも、綺麗な足で悪者を蹴っ飛ばすバーナビーも、私は知らない。


「バーナビーだってそうじゃない」
「そう、とは」
「仕事してる私なんて知らないでしょう。一緒じゃない。中継があるか無いかの違いで」


だから良いの。おとぎ話だって、流行りの恋愛ドラマだってそうじゃない。見返りに合わないことを求めた人間はいつだって泣きをみる。どうして私は知らなくて良いはずの彼を知っているの。


「だから、ね」


テレビでよく見る爽やかな笑顔で、わかりましたと言って欲しい。頑張って聞き訳の良い女になるから、あなたにも私の言い訳を聞いて欲しい。

だけど、バーナビーはずるい。


「納得しませんよ、そんなの」


眉に皺を寄せて、きっとテレビ越しの他の女の子は知らない顔。だけどそれは、私の知ってるバーナビーの顔。


「出動を言われれば泣きそうな顔をするのはどこの誰ですか」


安心してしまった。
わがままで良い。聞き分けの良いひとじゃ無くて良い。


「どんなに帰りが遅くなっても起きているくせに」
「お蔭様で、最近は肌の調子が悪いの」
「気にしませんよ、そんなの」
「…本当に?」


だけどそれはお互い様だって、何度でも教えて欲しい。


「言葉と行動が比例しないあたり、可愛らしくて良い」


緩んだ頬をシーツで隠しながら、一緒に寝ましょうとベッドに隙間を作れば、背中にぴたりと重なる体温。


「愛してる、じゃなくて?」
「意外と恥ずかしいんですよ、解るでしょう」


あなたがプレゼントしてくれた口紅が同僚からすごく好評だったことをあなたは知らない。前に行ってみたいと言ったケーキ屋さんに友達と行ったことも、お気に入りのバッグが壊れたことも、何も知らない。

だけど、あなたは知っている。


「嫉妬と心配、報酬なんてそれだけで充分だ」
「ポイントは?」
「残念、今は僕に格好付けさせるところでしたよ」


私があなたを好きだと言うことを。


「もう寝ましょう、僕も疲れている」
「…私、いつかバーナビーのこと好き過ぎてテロリストになっちゃうかも」
「またそんなこと…いや、捕まえやすそうで良いですね」


くすくすと、眠気混じりの笑い声を零しながら。


「キスで逮捕がセオリー、ってこと?」
「期待を裏切らない男でしょう」


もう少しだけ朝焼けを待つことも贅沢だと、私だけのヒーローに抱き着いた。





月と太陽の隙間


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