万太郎になっちゃったよ | ナノ


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「諸悪の根元は君かあああああ!!」
「ぶふぁっ!!」

僕はガゼルマンを呼び出して出会い頭に顔面を殴った。ちょっと溜飲が下がったよ。まだ殴り足りないけど。

「な、何をするんだいきなり!」
「何を、はこっちの台詞だから!何してんの!?首ったけ万ちゃんって何!?馬鹿なの!?」

ガゼルマンは頬を押さえながらキョトンとしたけど。

「なんだもうバレたのか」

と直ぐに誇らしげな顔で立て直す。もう一回殴ろうか悩むよ。ていうかテレビに堂々と出ておいてバレないとでも思ったのかこの牛科野郎は!

「良くできていただろう?発案は俺、製作はセイウチンの家族総出で手伝ってもらってな。今では女子供中心ではあるが人気商品だ。安心しろハラボテ委員長からはちゃんと許可は取っているぞ!」

聞いてるだけでツッコミ所しかない!君は東京防衛してないで何をしてるの!セイウチン一家も何してんの!委員長から取る前にまず僕に取ってよ!頭と胃が痛い。痛みすぎて色々と鎮火してきた。僕は肩を落とす。

「何でこんなことを?」

力なく出た僕の言葉にガゼルマンは真剣な表情になる。そして彼は語った。

始まりはチェックメイト戦からガゼルマンは少しでも僕の応援がしたくて売り子をしたらしい。しかし、チェックメイトのグッズを前にして大勢の観客がそちらを手に取っていった。売れ残る万太郎のグッズ。

「俺は悔しかった。確かに万太郎、お前は俺より遥かに不細工だ。だが俺は知っている。お前が如何に凄い奴なのか!ヒデブっ!だから何をするんだ!」
「あ、ごめん。何となく」
「お前、前々から思ってたが俺にだけ風当たり強くないか?」
「キノセイダヨ。ツヅケテツヅケテ」

咳払いをしてガゼルマンは続ける。ガゼルマンは民衆に僕と言う存在をもっと知って欲しかった。そして試行錯誤した結果、生まれたのがこの首ったけ万ちゃんだそうだ。

「結果は知っての通りバカ売れだ!」

話し聞き終えた感想は何してんの君。どこ目指してんの?社長にでもなるの?君は正義超人じゃなくても食べていけるね。その他諸々。ただ、善意でやってくれているのはわかる。わかるだけに怒りきれない。

「君がそこまでする必要はないと思うんだけど」
「バカを言え、お前は俺たちの誇りなんだぞ。それが悪行超人より劣るなんてあっていい筈がない。それに言っただろう。“サポートは任せろ”ってな」

朗らかな笑みで言い切られちゃっては何も言えなくなってしまった。やかましいわ!と言いたかったけどね。脱力する僕を後目にガゼルマンはこの後、打ち合わせがあるとかなんとかで早足で去っていった。実に多忙そうでした。うん、僕はもう何も言わないからね。

結局、なんの解決にもならなかったし変に疲れただけだった。帰り際、ガゼルマンの言葉を思い返す。

お前は俺たちの誇りなんだぞ

「…誇り、かぁ」

僕には勿体ない言葉だよ。ガゼルマンの言葉は重く、でもほんの少し嬉しくはあったんだ。ちょっとだけ願ってしまった彼らにとって本当に誇れる存在になりたいって。

「それは、傲慢ってものだ僕」

苦笑いと一緒に涙が出そうになった。


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