万太郎になっちゃったよ | ナノ


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と思ってた時期もありました。チェック・メイトが今どこにいるって?僕の隣で風呂敷の中身を食べていますけど何か?ミート、ごめん。僕、チェック・メイトのあざとさに勝てなかったよ。だって!あんな悲しそうな顔されたら無理だから!これでも頑張ったんだよ!でも最後の殺処分寸前の犬みたいな顔で見られたら誰も耐えられないから!僕の胃のライフはゼロだから!

僕の心情なんて知らないであろうチェック・メイトはそれは嬉しそうに僕たちの晩御飯のおかずをモキュモキュと食べている。因みに箸はコンビニで買いました。

「とても美味しいです!万太郎!」
「うん、それは良かったよ」

僕らが座るベンチを照らす街灯より眩しい笑顔で結構あった筈の惣菜をあっという間に平らげていくチェック・メイトに苦笑いが溢れる。ここまで美味しそうに食べてくれたなら報われるものだろう。思い込みって大事だと思うんだ。

「ごちそうさまです」
「おそまつさま」

空になったタッパ群をしまいながら時計を見る。時間帯的にスーパーで買い直しは不可能。はい、コンビニ弁当確定です。どうもありがとうございました。

「万太郎、これはどこで買ったんですか?」
「ん?買ってないよ?全部、僕が作ったんだ」
「万太郎が、作った?」
「趣味みたいなものだよ。じゃあ、僕は帰るから」

超人だから大丈夫だろうけど帰りは気を付けてと常套句で別れを告げようと思ったら腕をガッシリ捕まれてしまった。心なしか彼の目は風呂敷の中身を察知した以上に光輝いているように見える。

「素晴らしい!素晴らしいです!こんな美味しいものを作れるなんてやはり万太郎は凄い人ですね!」
「あ、ありがとう」
「私はもっと万太郎の料理を堪能したい!私のために料理を作ってください万太郎!」

を、をちつけ!

興奮気味のチェック・メイトを宥めながら彼の主張を纏める。彼曰く、色々なものを食べたがここまで感動したのは初めての事らしく出来ることなら毎日、食べたいだそうだ。ここまで誉められるのは気恥ずかしいけど嬉しい。でも毎日、作るのは厳しいと僕の現状を伝えると。

「私の所で作っては?」

という提案が出たんだ。彼の住居はハラボテ委員長が用意したモデルルームらしく家具、家電、キッチン等ちゃんと備わっているとのことだった。なにそれ羨ましい。こっちは水は公園水、洗濯はコインランドリー、風呂は銭湯なのに。この落差なんなの?キン肉ハウスに行くことを決めたのは自分だとはいえ何とも言えない気分になってしまったよ。

しかし、彼の申し出は棚からぼた餅と言いますか酷く有りがたいものなのは確かなんだ。たとえ中身的に前世が女でこの身が未成年(超人だから気付かれないことが多々)だろうが男は男だ。定期的にとはいえ夜の女性宅に通うのは前々から抵抗を覚えていたことではある。その分、チェック・メイトは男だし知らない仲でもないし。どうしよう。デメリットが見当たらない!

「じゃあ、君の言葉に甘えていいかな?」
「ええ、勿論!」

こうして僕は自分の趣味に没頭できる場を偶然にも手に入れることが出来たのだけれど、まさかあんなことになるなんて…。過去の僕よ。ここが分岐点だったんだ!気付いて!


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