「好きなんだ、」



たとえばそこが夜景の綺麗なレストランだったり、満月の夜の満天の星の下だったりしたなら、その台詞もぴったりと当てはまるだろうに。


「…は、い?」


あいにくここは近所のハンバーガーショップだったりする。




「アルフレッド、」

「(もがっ) む?なんだいなまえ」

「悪いんだけどもう一回言ってくれる?」

「(ズズズ) なんだ、聞こえなかったのかい?」

「うん、とりあえずシェイク飲むの止めようか」


それでもストローから口を離そうとしないアルフレッドにあろうことか頭痛さえしてきた。ちょっと落ち着いて考えてみよう。なんだって今日この日この場所でわたしは(口の中をハンバーガーでいっぱいにしてそれをシェイクで流し込んでるようなメタボ予備軍の最有力候補みたいな)彼に、こ、こ、告白なんてされているんだろうか。……でも、正直嬉しい。本当は死ぬほど嬉しい。でもなんだこのムードもへったくれもない感じは。す、少しだけ悲しい、気がする。


「てか、なんでいきなり好きとか、あ、頭でも打ったの?」

「仕方ないじゃないか、言いたくなったんだから」

「(せ、台詞がいちいち恥ずかしいんだよばか!)」

「君からは何もないのかい?」

「へ、え、わたし、から?」


急に話を振られて思わず聞き返すと、口の周りにパティのかすを付けたままのアルフレッドは頷いた。それはつまり告白の返事を聞きたいと言う事なのだろうか、…それ以外に特に思い当たる節はないのだが。段々頬に熱が集まってきて顔から火が出そうになる。この際言ってしまえばいいんだ、わたしも好きだって。ずっと好きだったって。きゅ、と一度唇を引き結ぶ。熱を拡散させようとふるふると首を振った。





「っ、…だめだやっぱり我慢できないよ!」


その言葉と同時に目の前でアルフレッドが盛大に噴き出した。きょとんとするわたしの顔がおもしろかったのか彼は此方を垣間見て更に大きく笑った。な、なんだっていうんだ、なにがそんなにおかしいのかさっぱりわからない。というかポテトが飛んできそうだからそんな大口開けて笑わないで欲しい。



「は、な、なに、なんで笑ってんの」

「ごめん、っ、…君の反応が…あんまりにも女の子っぽいからびっくりしたんだ」

「っ! そ、そんなことで笑うな!」

「はは、ごめ、…つい、おもしろくて…」


ひいひい息を切らして笑うものだから恥ずかしくて仕様がない。しかもな、なんでいきなり女の子っぽいとか言い出すんだこいつは。わたしなんて可愛くも何ともないのに。あ、いや、可愛いとは言われてないか…と、とにかく恥ずかしくていたたまれなくなってきた。早く此処を出たい。と、いうか、早くアルフレッドの前から消えたい。がたんと立ち上がって足早にドアへ突っ込む。ばたばたと駆け足で走り出すけれど、数秒と経たないうちに腕を引かれてまんまと捕まった。


「なんで逃げるんだよ、」
「アルフレッドがばかみたいに笑うから」

「む、俺はばかじゃないんだぞ」

「も、もういいから離してって…」


がっちりと掴まれた腕が熱い。正直なわたしの体は敏感に彼の体温に反応する。触れている部分に体中の神経が集まってるんじゃないかってくらい。情けなくて恥ずかしくて涙が出そうだ。目頭が熱くなってじわりと視界が滲む。するとその涙を拭うように柔らかい熱が瞼に触れた。それがアルフレッドの唇だと気付くのに長い時間がかかって、その後、また頬がかっと熱くなった。



 
 
「本当はすぐ嘘ってばらそうと思ったんだ、」

「は?(う、嘘?)」

「だってファーストフード店で告白されたって誰も嬉しくないだろう?」

「(…こいつ…)」

「だから、今日はエイプリルフールじゃないか!って一回流して、家に帰ってから改めて言おうとしたんだ。本来エイプリルフールっていうのは午前中についた嘘を午後にきちんと訂正しないといけないものらしいから」

「訂正って、なにを、」

「…君はムードもへったくれもないね、」

「(数分前にわたしも同じようなことを思ったよ、)」

「好きってさ、なまえに言おうと思ったんだ」

「…は?」

「あ、そうそう、昨日買い物をしてたら可愛いネックレスを見つけたんだ!」

「ねっねっネックレスは別に良いんだけどねぇ今なんて言った!?」

「だからこれも一緒に君に渡そうと思って」


人の話を聞かないのは相変わらず。オーバーアクションなのもいつも通り。だけどなんだろう、いつもよりずっとばかばかしくてかっこよく見える。…わたしは相当頭がおかしいらしい。言葉の端々に埋め込まれたフレーズが都合よく頭の中で反芻する。好き。確かに彼は好きと言った。わたしの名前も一緒に。ただただ呆けた様にアルフレッドを見上げていると、紳士のようにさり気なく手をとられて、優しく引かれた。



どこにいくの、俺の家さ、どうして、君に好きって伝えるために。



恥ずかしいよ、ねぇ、手、離してよ。ちゃんと隣にいるから。あ、そうか、きっとアルフレッドはわかってるんだ。わたしの視界が涙でいっぱいで歪んでること。足が竦んで真っ直ぐ歩けないこと。だから手をひいてくれてるんだ。人のこと女の子みたいでおもしろいとか言ったけど、アルフレッドもちゃんと男の人みたいでおもしろいよ。可愛くなくてごめんね、でも、早くその言葉を聞きたい。だから、もし、もし良かったら、



その後は甘えさせて、
(わたしからもすきっていいたい、)


 
 
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