08



降り注ぐ日差しに瞼の裏が白む。
ゆったりと目を開ければ小さく鳥の鳴き声が聞こえた。
もぞもぞとブランケットを引っ張って、体温の上がりきらない体をすっぽりと包んだ。

確か、今日彼女は休みのはずなんだけど。
思考の端っこでそんなことを思いながらうっすらと開けた視界に動く影はなく、それどころか物音ひとつ聞こえない。
毛布をぐるぐる巻きにして、まるでみのむしみたいな恰好で体を起こした。
自ら掃除機をかけてほこりひとつ落ちていないフローリングの上を歩く。

リビングへと続く扉は開けっ放しになっている。
そういえば寝室のカーテンも開けてあったっけ。
そうなると、彼女は自分より先に起きだして何処かへ出掛けたと考えるのが一番自然だろう。
顔だけを覗かせてリビングを見てみるのだけれど、やっぱりそこにも彼女はいなかった。

のそのそ。寝起きの気怠さを引きずりながら、誰もいないリビングを通り抜ける。
暖かい陽光の差し込む室内を行くあてもなく彷徨っていると、キッチンのテーブルに、ラップのかかったプレートが置いてあるのを発見した。
透明のそれに透けて見えるのは、昨日の晩ふたりで作ったハンバーグと、目玉焼き。
出掛けてきます。良かったらお昼に食べてください。
小さな丸い字で書かれたメモをそっと退けて、傍らの椅子に腰かける。

ソースが毛布に付いてしまわないように注意しながらラップを取って、くちゃくちゃに丸めてテーブルに放り投げた。
これを見たら彼女はなんて言うだろう。頭の中の彼女はごみ箱を指さしてごちゃごちゃと何か言っているみたいだった。
ふ、と小さく噴き出して、箸で切り分けたハンバーグを一口含む。うん。おいしい。

二口目を口に運んだところで、自分が寝起きそのまま、顔すら洗っていないことに気が付いた。
思わず苦笑いを零しながら乱れた髪を掻き上げる。
包まっていた毛布を適当に畳んで、椅子の背もたれに掛けておいた。

立ち上がって一歩踏み出したは良いものの、動きは冬眠から覚めた熊そのもので、こんなところファンの子には見せられないなと思った。
この部屋はあまりにも居心地が良過ぎて、たまにこうやって地が出てしまう。

前の家でだって好き勝手してきたのだけれど、自分を叱る干渉の言葉を聞いたのはここが初めてだった。
今までは皆一様に自分を放っておくことなどしなかったし、言動に文句を言われることなんてありえなかった。
前まではそれが当たり前で、それでいいと思っていたのに、今は、こんなにも違う。



「出来るなら、このまま、」



不意に、インターホンが来客を告げる。

洗面室へと向けていた足を止めて、少し先にあるドアを静かに見詰めた。
ああもう本当に、なんてタイミングの悪い。

無表情を貼りつけて、迷うことなくドアを開ける。



「やっと見付けたぞ、レン」



タイムリミットはもう、すぐ傍まで来ていた。



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