02



「ん、…」

カーテンから洩れる光に目を覚ませば、なんとなくまだ体が重い気がしてぐったりする。
しかたないとはいえソファーで寝たのが悪かったかなぁ。
ぎゅう、とすぐ隣にあった抱き枕に抱き着いて微睡んでいると、ふわりと香るシャンプーのにお、い、


「(シャン、プー……?)」



目を開くとすぐ目の前には、昨日拾った猫がいました。






「叫ばなかっただけ良しと思ってください」

「ごめんねレディ、…」


わたしのベッドを占領したと思ったらいつの間にかソファーまで侵略されかけて、朝からてんやわんやの大騒ぎ。
慌てていたのはわたしだけだったけども、ごにょごにょ。

しばらく正座をさせていた所為か目の前の青年は足をもぞもぞと動かしている。
寝癖のついた髪は確かにわたしと同じシャンプーのにおいがした。
ぶわ、と今朝の記憶が思い起こされて顔に熱が集まる。こ、こんなことしてる場合じゃないのに…。


「で、貴方のお名前は」

「…レン」

「……レンくんはどうして昨日うちの前に居たの?」

「レディちょっとまってレン、くん、って…」

「あれ、まさか年上?」

「…今年で18」

「じゃあやっぱりレンくんだね、はい、昨日うちにいた理由!」


ひとつ溜息を吐いて、やれやれまいったなと言いたげな様子の彼は、確かに18歳とは思えない雰囲気をしている。
雰囲気、というか、容姿が、と言った方が正しいのかもしれないけれど。
節々の仕種や立ち居振る舞いは、なんとなくだけど、年上よりは年下のそれに近い気がしていた。


「前の居場所が使えなくなって路頭に迷ってたんだ」

「前の居場所?」

「そう、今みたいにいたいけなレディの家に上がり込んで、少しの間お世話になってた」

「…」


にこにこと笑いながら放つのは、到底現代の18歳とは思えない台詞だったけど…。

呆然とするわたしにねぇもう足崩していいかな、なんて言ったと思ったら、いつの間に近付いたのか目の前に空色が現れた。
彼と同じように床に座り込んでいたのに、その距離に思わず飛び上がってしまって、そのままソファーの影に隠れる。


「あんなによく眠れたのは久しぶりなんだ」 

 
ふ、と、突然、悪戯っぽい笑顔から穏やかな笑みに変わって少しだけ驚く。
そんな表情も出来るんだ、と目を丸くしたら不思議そうに首を傾げられた。

話を聞く限り盗人ではないはず。
ただし、厄介な事には変わりはない。

じとりと疑念の目を向けてみると彼は至極面白そうにその目を細めた。


「ねぇレディ、そういうことだから

 俺をしばらく此処に置いてくれないかな」


出来たら聞きたくなかったその言葉はあっさりと彼の口から出て来てしまった。
どうしましょう実家のお父さんお母さん、わたし、頼まれたら断れない性格なんです…………


 
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