「すき、です」
『はい』
「あ、れ 古泉くん 今の聞こえた?」
『はい、聞こえましたよ?』
「 え え?」
『今日、エイプリルフールですよね」
古泉くんがよくする笑みが受話器越しに浮かんでくるようだった。ふふって声を漏らしながら、ぼくにそんなこと通用するわけないんです、みたいな感じで。その声にじわりと胸の奥が熱くなる。慌ててカレンダーを見れば紛れも無く今日の日付は4月1日。ありえない、恥ずかしいという思いと、戸惑う悲しいという想いと。どうしてわたしはよりによってこんな日にこんなことを言ってしまったんだろう。ばかだ、本当に。
「あは、ばれちゃった。
古泉くんにはなんでもお見通しなんだなぁー」
『そうですねー キョンくんだったら騙せたかもしれませんが』
「じゃあキョンに電話すれば良かった な 」
『 それも面白そうですね やるときはぼくも参加させてください』
「うん わかった。 それじゃあ」
『あ、ちょっと待ってください』
いつもと同じ口調、いつもと同じ声色、全部いつもと同じなのに、それが逆にわたしの涙腺を弛ませる。今にも泣き出しそうだ。声だって、必死で震えないようにしてるのに。でも、古泉くんの言葉を無視することなんてできなくて。なぁに?わたしは小さく返事をした。
『さっきの言葉、覚えてますか?』
「 えっと どれ、かな?」
『古泉くんにはなんでもお見通し、って 言いましたよね』
「あぁ、うん」
『ぼく、うそついてるんですよ』
「 へ?」
『また明日、 もう一度聞かせてください。
どこまでが本当で、どこからが嘘だかくらい、ちゃんとわかってますから』
また、ふふって声が聞こえて、わたしの膝に堪えていた涙が落ちた。いきなりうるさくなった鼓動を手で押さえてわたしはまた、小さな声でうん、と、それだけ返した。