「あ、こ、こんにちは」
「ああ、こんにちは」
あの日からしばらくして、彼に、ルートさんにお会いしてから3ヶ月が経ちました。最初こそその風貌や言葉遣いに戸惑ったものの、近頃はだいぶ慣れてきました。…ですが、前には気付かなかった困ったことが起こり始めるようになってしまったのです。
「なまえ、」
「っ! は、はい!」
きちんと自己紹介をしたのだから、彼がわたしの名前を知っているのは当然のことだというのに。名前を呼ばれるたび体中が心臓になってしまったのではないかと思うほど、どきどきとうるさく高鳴るのです。それだけではありません。彼が笑顔を見せてくれる度、彼のことを知っていく度、どうしようもなく嬉しくて、幸せな気持ちになるのです。
「なまえちゃーん、ハグハグー!!」
「わっ、フェリシアーノさん…!」
今わたしに飛びついてきたのは、ルートさんと同じく、おじいちゃんのお友達として紹介していただいたフェリシアーノさんです。彼は、その、なんというか、人と触れ合うのが好きなようで。今のようにハグー!と叫んではめいっぱい抱き付いてきます。欧州のほうではあたりまえの挨拶だと言っていましたが、東洋ではこんなこと滅多にしません。まして相手は、お、男の方ですし。これにもすごくどきどきしますし、突然来られるととても心臓に悪いです。
いつもならここで顔を見合わせてぎこちなく笑顔をつくれば機嫌良く離してくださるのですが、 今日はすこし、違いました。
「こら、フェリシアーノ!なまえが困っているだろう!」
「ヴェ!ルートぉ!」
べりっ、と、そんな効果音が付きそうな勢いで引き剥がされて、体温が離れていく。
はずだったの、に。
「( る、る、るるるるーとさん!あの、そのっ!! )」
言葉にならない言葉が喉の奥で詰まって呼吸困難になりそうです。それに、その、背中に回された腕が思っていたよりずっとあたたかくて、逞しくて、優しくて、頼もしくて、…言い出したらキリがないです。つ、つまるところ、あれです。フェリシアーノさんの言葉を借りるならハグ、を、されているのです。きっとルートさんにそういう気は全くないと思うのです。ただ、わたしを助けてくれようとしているだけだとわかってはいるのです。です、が。わたしにとって紛れもなくそれは抱き締められているのと同じ、で。こんなことは初めてて、どうすることもできなくて、これ以上無いくらい恥ずかしくて嬉しくて、心臓が止まってしまいそうです。きっと、この先どんなに長く生きても、これ以上の幸福は味わえないと思いました。だって、上手く呼吸ができないし、頭の中は真っ白だし、ふわふわして。あ、れ 、 れ 。
「Bitte, rufen sie einen Arzt!」
( お医者様を呼んでください! )
「ヴェーっ!!なまえーっ!!!」
「っなまえ!どうした!」
あまりのうれしさに 倒れてしまいました。
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「頬は恋色に染まる」の続き。