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秋が大分深まってきた今日この頃。今年はどうやら暖冬で、深まったと言っても風が肌を撫でて鳥肌が立つぐらい。半袖にパーカーという何時もの部活帰りの格好で有希は自宅から少し離れた町をぶらぶらと歩いていた。

「えっと…ジャガイモと味噌と…って、部活帰りで疲れてる娘に重たいのばっか。容赦ないなぁ」

カサカサとレジの袋を鳴らしながら歩くと呼応するように落ち葉が風と一緒にカサカサと音を鳴らして踊る。その光景でやっぱり秋だなぁと肩を震わせた。汗をかいた部活後にこの風は少し体には厳しいらしい。何気無く踊った葉っぱ達の行方を目で追って行くと、通り過ぎようとしていた公園が目に入った。何やらいつにもまして歓声が聞こえてくる。大体この公園は小さい子達が遊ぶ遊具と、併設してバスケコートがあるだけで歓声が上がるような所ではない。せいぜい子供のやけに甲高い声が響くぐらい。一体何事だろうと有希はビニールを自分の体で守るように前へと回して人混みに入って行った。

「新秋…男女混合、バスケ大会?」

ネットに張られていたのはそんな文句が書かれた横断幕。どうやらここで今からストバスの大会が行われるらしい。小さい大会なりにちゃんと商品も出るらしく、一位のチームにはバスケットプレーヤーには嬉しいジョーダンの人気モデルのバッシュ人数分らしい。
有希は勿論賞品に興味も無ければ試合なんて出れるわけないのだが、この前黄瀬君に見せてもらった試合がまだ脳裏に焼き付いていた。だから、誰がどんなプレーをするのかだけでも見てみたいと人混みの中頑張って踵を浮かした。

「ああーーっ!!いたぁーーーっ!!」
「…へっ?!ぎゃっ!」
「捕まえたっス!」

ただえさえ踵を浮かしていてバランスが悪かった。その上大声で叫ばれるのと同時に自分の服を後ろから引っ張られる感覚がして、一気に自分の重心が後ろへと下がっていった。
ーーーーーた、おれるっ!!
思わず目を瞑ったが、お尻には何の衝撃も来ない。それどころか背中にポスっと誰かに寄りかかったような感覚があって、一瞬自分に何が起こったのか分からなくなった。ただ私に寄りかかられた人はスポーツマンなのか意外とがっちりしていて、私が倒れこんだくらいじゃびくともしなかった。

「わわっ、ごめん!大丈夫っスか?!」
「…黄瀬君?」
「はい、黄瀬っス!」
「…つくづく黄瀬君て、神出鬼没だよね…」
「?」

有希は後ろの黄瀬君の存在を確認すると本当に勘弁してくれ、とばかりに大きく息をついた。いきなりこんな事をされたものだから、心臓がバクバクと跳ねて煩い。ついでに言えば彼の満面の笑みを見てしまったのも相乗している。

「…って、こうしてる場合じゃ無かったんスよ!水野サン、大会一緒に出て!」
「はい?」
「ありがとう!!じゃあこっちに!」
「いやいやいや、今のは了承じゃなくて聞き返しただけだから!取り敢えず私に状況を説明してー!」

黄瀬君は何を勘違いしたのか、私が動き出さないものだから抱えたまま引きずって移動させた。重いはずの私でも平気な顔して、むしろ笑顔で「センパーイ!みつけたっスよ!」と言ってる位だ。だけど引っ張られる私は全く状況が理解できていない。何がなんでどうしてこうなった。取り敢えず有希は、手持ちのビニールを引きずらないこと、ただそれだけを必死に注意して自分の胸に抱え込んだ。引きずってビニール破けて中の野菜やら何やらをぶちまけるなんて、冗談抜きで洒落にならない。特にこんな人の多い所なんて更にだ。余分なお金なんて持ってきてないし、そもそもまたスーパーに逆戻りなんて嫌だ。
この時点で有希は、逆戻りよりも面倒くさい事に巻き込まれているなんて想像もついていなかった。
黄瀬君の行く先々には、この前の試合に出ていたメンバー四人が立ち往生していた。四人の視線が、引きずられる私に行ったことは言うまでもあるまい。

「おまっ…黄瀬何やってんだ人引きずって!」
「?!ああ、君は有希ちゃんじゃないか!僕の麗しの天使!こんなところで会えるなんて運命としか言いようがない…!」
「いや、だってここ近所なんで」
「水野じゃないか」
「小堀先輩!」
「あっ、この前美味しい(レ)モンのハチミツ漬けを差し入(れ)てく(れ)た子っ!!」
「どうも…」

どうやら私は海常高校男子バスケ部レギュラーの面々に顔と名前を完全に覚えられたようだ。笠松先輩が私から顔を逸らすのは変わらないが。

「ん?どうしたんだ、その荷物」
「部活帰りにお使いを親に頼まれまして…てかあの、すいませんが状況説明なんかしてもらえませんか?」
「あれ、黄瀬説明せずに連れてきたのか?」
「はい、いきなり」

私が凄い勢いでコクコクと首を縦に振れば小堀先輩がしょうがないと苦笑を漏らす。だがちゃんと笠松先輩は私の横でテヘヘと頭を掻いている黄瀬君をはたいてくれた。

「まぁ簡単に言うとだな。俺らはこの大会に出たいんだが、女子を交えたチームじゃなきゃ参加できないらしくてな。参加できる子を黄瀬に探してもらっていたんだ」

聞けばこのバスケ大会。なんでもバスケをより多くの人に広めようと企画したものらしい。真剣勝負は望んではいないために、そこそこの試合になるよう女子を登録させなければならないというルールなのだそうだ。この女は別に経験者でも構わないというのだから、変な所は徹底していない。黄瀬君達はたまたまこのメンバーで遊んでいて、なんか物足りないと感じた所にまさかストバスの大会だ。しかも賞品が賞品。すぐに飛びついたが残念ながらメンバーに女はいない。
なので見た目だけはいいと評された黄瀬に誰でもいいから引っ掛けてこいと言われて駆り出されたのだ。
そしてたまたま目線の先にいたのが…

「私だった。…てことでいい?」
「はいっス!…ダメっスかね?お使いの途中なんスよね?」
「いや、食べ物は特に腐る物ないからいいけど。それより問題なのは、このメンバーで私が絶対足引っ張るから!私初心者!」
「え?だって水野サン、テニス部レギュラーなんでしょ?」
「そう、テニス部!バスケ部じゃない!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!俺達がちゃんとフォローするから!問題なのは女の子一人だからフルで出なきゃって事なんスけど…」
「え、何試合ぐらい?」
「トーナメントなんで…三試合っスね!一試合が十分なんスけど」
「まぁ…それは部活動生の意地で…」
「よかった!」
「いや、まだOKしてないっ!」

私の言葉が悪かったのだろうか。何だか雰囲気が参加の方向に流れている気がする。…いや、気のせいではないみたいだ。
何故か黄瀬君は試合までのおさらいということでルールを教えてくれだしているし、早川先輩は何やら本部らしきテントに赴いて選手登録みたいなことをしている、ちゃんと私を指差して。
ちょっと待って、私まだ参加するとは言ってないんだけど。
森川先輩は僕が君を守ってみせる!とかなんとか言ってるし、止めてくれそうな小堀先輩はそんな森川先輩を止めている。私としては試合の方をどうにかして欲しい。笠松先輩に至っては…目をそらされることはまぁいつも通りだが、更にちょっと距離を取られている。
バスケ部に交じってバスケをするなんて足を引っ張るから気が引けるのも勿論理由の一つなのだが、一番の理由は何かと言えば、それは笠松先輩の事だ。嫌われてる理由が分からない人と一緒にスポーツなんて気まずいなんてもんじゃない。しかも下手したら更に理由が上書きされるかもしれないのだ。だけどだからと言ってもう断ることもできなさそうにない。ここらで腹を括るしかなさそうだ。

「…どうなんの、これ」
「3on3だから二人ずつだな。どうする?」
「一人だけ二回出るのか」
「 それじゃあ…」
「「「「ジャンケーン、ポンッ!!」」」」」
「ッ、よっしゃ!俺が二回出れるっス!」
「ちょっと待て、お前が二回も出たら簡単に勝負決まって面白くないだろ!俺に出させろ!」
「往生際悪いっスよ、森川先輩」
「だって少しでも多く出て有希ちゃんにかっこいい!って言われたい!!」
「アホだろ、お前」
「も(り)川先輩はいつでもカッコいいですっ!!!」
「…このノリに慣れてきた自分がなんだか怖いです、小堀先輩」
「なんか色々すまんな」




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